2022年が終わる前に、絶対に読んでおきたい小説6選【2022年KADOKAWA文芸書話題作・文学賞受賞作まとめ】

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2022年が終わる前に、絶対に読んでおきたい小説6選【2022年KADOKAWA文芸書話題作・文学賞受賞作まとめ】

[レビュアー] カドブン

2022年も終わるんだな、あっという間だったな、としみじみしているあなた。今年は去年よりいい年だったな、と振り返っているあなた。来年はもっといい年になりますように、と祈っているあなた。
何か、忘れていませんか? そう、読み逃している本があるはずです。そして2022年はまだ、終わっていません。
今年も、忘れられない本がたくさん生まれました。KADOKAWA文芸編集部より今年刊行した話題作の中から、2022年の読書の総仕上げに、絶対に読んでおきたい6冊をご紹介します。年が明けて2023年、「去年はあの本があったよね」と本好きの皆さんが振り返ること間違いなし。
「2022年も本を読み切った」と胸を張って新年を迎えられますように。
(カドブン季節労働者W)

■2022年の読書の総仕上げに、絶対に読み逃してほしくない小説6選

■蝉谷めぐ実『おんなの女房』(KADOKAWA刊)

2022年が終わる前に、絶対に読んでおきたい小説6選【2022年KADOK...
2022年が終わる前に、絶対に読んでおきたい小説6選【2022年KADOK…

デビュー作『化け者心中』は小説野性時代新人賞、中山義秀文学賞、日本歴史時代作家協会賞を受賞して文学賞三冠。2作目の『おんなの女房』では野村胡堂文学賞を受賞。時代小説界に颯爽と現れた破格の新鋭、それが蝉谷めぐ実さんです。
『おんなの女房』は江戸時代、美しい女形(芝居で女の役を演じる男の役者)に嫁いだ志乃(しの)の物語。女形としての自分を磨くために家でも女としてふるまう夫・燕弥(えんや)との関係に悩む志乃は、歌舞伎のことをなにも知らない武家の娘です。志乃は燕弥と過ごすうちに歌舞伎の魅力を知り、歌舞伎で語られる女性たちの美しさを知ります。やがてふたりは惹かれ合い――しかし、ふたりが「夫婦」になるということは、燕弥に「男性」の役割を求めるということ。であるならば、彼の「女形」としての生き方はどうなるのだろう。そこに浮かび上がってくるのは、性別とか、家柄とか、女らしさとか、様々なレッテルでがんじがらめにされた世間のありよう。現代に通じるテーマと向き合いながら、ふたりの恋物語が綴られます。
恋の行方に手に汗握り、懸命に生きる姿に胸が熱くなり、やがて訪れるラストシーンに涙がこぼれる。時代小説を読まず嫌いしているそこのあなた、だまされたと思って読んでみてください。2022年で一番エモーショナルな物語、『おんなの女房』を読み逃してはなりませんよ。
(カドブン季節労働者N)

詳細はこちら ⇒ https://www.kadokawa.co.jp/product/322102000165/

■早見和真『八月の母』(KADOKAWA刊)

2022年が終わる前に、絶対に読んでおきたい小説6選【2022年KADOK...
2022年が終わる前に、絶対に読んでおきたい小説6選【2022年KADOK…

重く、苦しく、息が詰まりそうな小説ですが、途中からは引き込まれて最後まで読まずにはいられません。実在の事件を小説の題材にすると、「モデルになった事実を超えられていない」という話が出て来がちですが、『八月の母』には、そんな批判を吹き飛ばす強度があると思います。
読みながら何度も、ああ、自分はそれなりに清潔な家に暮らせていて良かった、うちはまだ大丈夫だ、と言い聞かせていました。それくらい、この小説の団地のドアストッパーの隙間から漂って来るタバコの匂い、がさつな宴会の騒音の暗黒のリアリティがヤバいのです。
終盤、広い世界に憧れた少女が見た幻影で、地図上の愛媛県から団地の一室の押し入れに収斂していく流れは、小説史に残るのでは、と思わされる凄みがありました。
一度読み始めた方は、ぜひエピローグまで読んでほしいと思います。
ある種不自由な、諦めの価値観に対して、自分の言葉を取り戻すこと。それこそがこの暗黒の作品で提示される救いであり、小説でだけ出来ることなのかもしれません。
(カドブン季節労働者F)

詳細はこちら ⇒ https://www.kadokawa.co.jp/product/322008000196/

■澤村伊智『ばくうどの悪夢』(KADOKAWA刊)

2022年が終わる前に、絶対に読んでおきたい小説6選【2022年KADOK...
2022年が終わる前に、絶対に読んでおきたい小説6選【2022年KADOK…

ページをめくったら最後、怖さと驚きのあまり「もうやめて」と何度も呟きながら、それでも読み続けずにはいられない。心の準備をしてから読みはじめてほしい、澤村伊智さんの最新長編です。
主人公は、黒い影に襲われる悪夢に悩む中学1年生。夢で受けた傷が現実の痣となり、同級生が命を落とし、彼の遺体には自分と同じ痣があり……と、恐怖の土台が瞬く間に整ったら、悪夢との絶望的な戦いが始まります。眠れば夢を見てしまう。夢では何かに襲われる。現実のことと思っても、気づけば悪夢の中にいる。
逃れようのない恐怖は、本書のほんの入り口に過ぎません。文献や推理を頼りに怪異の正体を紐解いていけばきっと大丈夫、と思ったのもつかの間、登場人物たちを待ち受ける展開には、間違いなく言葉を失うことになるはずです。それも一度ではなく、何度も。
読書をしていて、思わず残されたページの厚さを確かめたことはありますか? 本書では、きっと何度も確かめることになります。こんなはずはない、きっとこのまま終わるはずはない、と。しかしそんな希望も裏切られて、あなたは暗転と混乱のどん底に突き落とされる。
けれどご安心ください。途中までにあなたが感じた恐怖は、読み進めるうちに、別のものに塗り替えられます。まったく別の、想像もしていなかった恐怖に。「もうやめて」なんて今さら言っても、もう遅い。
2022年最恐のホラーをお見逃しなく。
(カドブン季節労働者W)

詳細はこちら ⇒ https://www.kadokawa.co.jp/product/322005000376/

■伊与原新『オオルリ流星群』(KADOKAWA刊)

2022年が終わる前に、絶対に読んでおきたい小説6選【2022年KADOK...
2022年が終わる前に、絶対に読んでおきたい小説6選【2022年KADOK…

『月まで三キロ』『八月の銀の雪』で注目を集めた伊与原新さんの最新長編『オオルリ流星群』は大人の天体青春小説です。
気づけば45歳になり、なんとなく毎日をやり過ごしていた久志は、高校時代の同級生・スイ子(本名は彗子と書いて「けいこ」)が地元に戻ってきていると耳にした。私設天文台を建てたいというスイ子のもとに当時の仲間たちが集うと、記憶の蓋が開き、当時は気づけなかった真実が明らかになり、ままならない現在が少しずつ変わっていく。
45歳ともなると、家族ができたり、職を変えたり、辛い過去を背負ったりと、いくつもの転機を経験しています。現在の自分の姿は、若き日に自分で思い描いたものになっているでしょうか。主人公たちと同世代はもちろん、もっと下の世代であっても共感できる悩みや不安が、読者の前に姿を現します。自分の人生に100%納得している人などいないでしょう、後悔していることもあるでしょう、でも、懸命にいまと向き合っていけば、かけがえのない瞬間は訪れるのだ――この物語は、そんな風に優しく背中を押してくれます。
理系的なトピックに情感豊かな物語を組み合わせるのは伊与原さんの魅力のひとつ。本作では”天体”にまつわる様々な要素が物語を輝かせ、読者の心を照らしてくれます。
(カドブン季節労働者N)

詳細はこちら ⇒ https://www.kadokawa.co.jp/product/321904000343/

■ 貴志祐介『秋雨物語』(KADOKAWA刊)

2022年が終わる前に、絶対に読んでおきたい小説6選【2022年KADOK...
2022年が終わる前に、絶対に読んでおきたい小説6選【2022年KADOK…

『秋雨物語』は、『黒い家』や『悪の教典』など日本のホラー小説史に輝く名作を発表してきた貴志祐介さんの、新しいホラー作品集です。中でも「こっくりさん」という中編は衝撃的です。「こっくりさん闇バージョン」を4人1組で行うと、3名は人生を逆転できる貴重なアドバイスを受けられるが、残り1名は命を落とすという。少年時代に「こっくりさん闇バージョン」を行った主人公は、時を経て再び儀式に頼らざるを得なくなり……という、至高のホラーです。忍び寄る恐怖とツイストする展開が絶妙です。他にも、謎の転移現象に苦しめられる作家の記録を追う「フーグ」、自称・ある呪いに苦しんでいる青年との対話篇「餓鬼の田」、この世のものとは思えない歌声に隠された秘密を追う「白鳥の歌」――どれも一筋縄ではいかない恐怖と驚きに満ちた物語が詰まっています。
冬の夜、暖かくした室内で背筋が凍るホラーを読むのもおススメです!
(カドブン季節労働者F)

詳細はこちら ⇒ https://www.kadokawa.co.jp/product/322204001073/

■文・編 加藤シゲアキ『1と0と加藤シゲアキ』(KADOKAWA刊)

単行本『ピンクとグレー』での作家デビューから10周年を迎えた加藤シゲアキさん(以下、敬称略)が、今やりたいことを詰め込んだ、どこから読んでも楽しめる全方位的なスペシャルブック。
競作短編(恩田陸、最果タヒ、珠川こおり、中村文則、羽田圭介、深緑野分、堀本裕樹、又吉直樹)や対談(白石和彌、前川知大、又吉直樹)の顔ぶれにも圧倒されますが、ショートフィルムや戯曲、7時間に及ぶインタビューやこれまでの歩みなど、膨大なコンテンツを織り込みながらも、書籍としてはスマートなたたずまいで書棚に並んでいたことが最大の驚きでした。手に取れば、真っ白なカバーからはみ出した輝く表紙に、2つの色が使われた本文用紙。本好きの好みをくすぐる趣向が凝らされ、1家に1冊は置きたい……と、ここまでは簡単なご紹介。
好きなだけ行ったり来たりしながら読んでみた結果、この本の面白さの根源は、加藤シゲアキ自身が、作品やインタビューを載せるだけにとどまらず「責任編集」を務めていること、にありました。豪華な執筆陣の短編を読めば、終わりには彼の言葉があり、お笑い・小説・演劇・映画界のクリエイターたちとの対談では、彼自身が対談相手の創作のあり方を引き出している。彼の創作やインタビュー、これまでの振り返りと合わせて読めば、私たちは彼自身の言葉で作家の10年をたどり、彼とともに作家たちの作品に触れ、彼の目や耳でクリエイターたちの作品作りに迫ることができる。そんな稀有な体験を提供してくれる本なのです。
これはもう、一つの「地図」みたいなもので、加藤シゲアキが10年で歩んだ道、目にした世界、出会った人々や耳にした言葉が、白地図を埋めているのです。彼はきっとこれからも、見たことのない場所へと私たちを誘ってくれる表現者であり続けると思いますが、彼が新しいものを世に送り出すたび、私たちは自宅の本棚を振り返るでしょう。大丈夫、私たちは、加藤シゲアキの「地図」をもっている、と。
(カドブン季節労働者W)

詳細はこちら ⇒ https://www.kadokawa.co.jp/product/322112000476/

KADOKAWA カドブン
2022年12月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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