「なんていうか野性味を感じないんだよね」所ジョージとなぎら健壱が語る、最近の芸能人と自分たちの違い

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アロハで酒場へ なぎら式70歳から始める「年不相応」生活のススメ

『アロハで酒場へ なぎら式70歳から始める「年不相応」生活のススメ』

著者
なぎら健壱 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784575317497
発売日
2022/10/20
価格
1,815円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

なぎら健壱さん×所ジョージさんが世田谷ベースで語り合う! 50年芸能界で生き延びるって大変じゃないですか?

[文] 双葉社


左:所ジョージ氏 右:なぎら健壱氏

 なぎら健壱による生き方指南書『アロハで酒場へ なぎら式70歳から始める「年不相応」生活のススメ』(双葉社)が刊行。芸能生活50周年となるなぎらさんの本の出版を記念して、親交のある所ジョージさんと、最近の芸能人との違いやこれまで生き残ってきた理由などを語り合った。お二人の考える頑張りすぎないけど、枯れない生き方とは?

 ***

所ジョージ(以下=所):僕はなぎらさんのこと、デビューの前から見てたんですよ。その頃はたとえばキャロルとかフォークシンガーとかがいる中になぎらさんが出てきてね。イベントに一緒に参加してるんだけど、どっか違うところから見てて、全体を小バカにしながら何かやってるわけ。人を食った感じのスタンスに、ちょっとした憧れみたいなのはあったんですよ。今はなぎらさんはカントリー一辺倒だけど、はじめのうちはとぼけた歌をみんなに喜んでもらおうと作ってたよね。そういうの聴いていると、くすぐったいわけ。爆笑じゃないんだけど、なんかどっかくすぐったいっていうのを見つけるのってすごく面白いし難しいんですよ。

なぎら健壱(以下=なぎら):一緒にライブやったときはね、何かしかけてくるだろうなってお互いに思ってるわけよ。あるときはギターケースからネックが15センチくらいのギターを出してきてね。高い音しかチューニングできないわけ。で、こっちはケースあけるとネックだけで、そこにハーモニカつけて吹いた。

所:ふふふ、あったなそんなの。

なぎら:見てる人たちはあっけにとられてるわけ。うちらは大真面目なのよ。

所:大真面目。準備するのにお金も時間もかかるしね。だけどね。そういうふざけてたのってじわじわくるもんで、爆発力ないんですよ。だから大イベントにつながらないの。だってさ、武道館に何万人も「そんなのやります」ってのに集まるわけないじゃん。

なぎら:あははは(笑)。そういういい加減さをほめてもらいたいというのもあるんだよね。

所:そうだね。ほめられたいよね。すごいなーって言われたいんだよね。大変なことは隠しといて、思いつきでやってんだくらいに評価されたいのよ。でもその分野は、日本ではちょっと無理だね。

なぎら:なかなかね。

所:難しいんだよね。貧しいんだもん、気持ちが。豊かさがないっていうか。

──でもその道を歩まれてきたわけですね、お二人とも。

所:それしかできないんだよ。だって、どっかで自分を笑っちゃうんだもん。「そんな真面目だったっけ? おれ」ってさ。そんなわけないでしょって。

なぎら:第三者であるもう一人の自分が自分を見たら、なんだと思うよね。

所:「何やってんの?」ってね。ふざけたことは反省しないけど、真面目なことなんかやると反省しちゃうよね。そんな人じゃないでしょ、って。

──なるほど。そうこうしつつも、今年、なぎらさんは芸歴50年になりますよね。

なぎら:区切りとか集大成っていうより、流れの中のひとつですよね。本を出したりライブやったりしますけど、準備をみんながしてくれてるわけで、お客さんに対してもそうですけどありがたみを感じてますね。

所:なぎらさんのライブは、実際に行ってみるとちょっとショック受けると思うよ。ちゃんとしてるんで。やっぱりこういうことをやってる人が持っている大きい柱がほしいよね、ほんとはね。曖昧なことやってるから曖昧な柱にしかならないんだろうな、とは思うけど。

──とはいえ、50年芸能界で生き延びるってすごく大変なんじゃないかと思うのですが。

所:大変ですよ。すごく大変。だけど、本人たちは大変なんてちっとも思ってない。「ああ大変だなあ」なんて思わないし、ただ、ここまできちゃったから振り返ればずいぶんきたから、「大変だったんだな」って他人事のように思うけど。

なぎら:そうそう。

所:今の時代は芸能界に入るのに学校があったりするけど、僕らの頃はそんなのないからね。だけどね、学校から入ってくるとさ、なんていうか野性味を感じないんだよね。

──野性じゃない!

所:練習して一生懸命やったのは感じるけど、野性感はないよね。

なぎら:根底にあるものが違うよね。

所:そういう人たちが芸能界入っちゃうと椅子ができて、そこにすわって「芸能人です」みたいになって、後輩と飲んでみたいなので終わっちゃうでしょ。うちらの世代は野生だから、なんか次のもの考えなきゃ、明日はもうダメだとか思うわけ。

なぎら:野生って面白い言葉だね。いわゆる家畜じゃないんですよ、うちら。野っ原に生きてるんですよね。だから反対に自分たちでどうにかしようと思ってるから、強いしね。飼い慣らされてる人は何かやってもらわないと餌もらわないとできないから。

所:でもこれね、たちが悪いのは、野生だとくさいとかね、またこんな畑に出てきたとか、そういう方向に行きがちでしょ。だから大事なのは、そう思わせない人柄。

なぎら:家畜に見える人柄ね。

所:そうそう(笑)。

──それが50年の強さなんですね!

なぎら:一瞬家畜に見えるわけ(笑)。

所:そう、まざってんの(笑)。野生の出入り口みたいなのを家畜の人は知らないけど、おれらは野生で知ってるから、いつでも野生にいける。

なぎら:家畜はそれを見てて、やっぱり「ああいうふうに生きたいな」と思うよね。

所:ところが電気柵にぶつかっちゃったりするんだよね(笑)。

なぎら:で、やめよって。

所:おれらはそれをまたぐ方法、知ってるからね。

なぎら:もちろん柵の壊れたところから出てくるやつが何人もいますよ。ただそうはいかない、野生界広いからね(笑)。

所:そうだね。出てきても、あれが食えねえ、これが食えねえって贅沢言ったりね。

なぎら:野生のくせに、なんでも食え、この野郎。どんぐりのかさでも食ってろ、この野郎って。

所:結局、邪魔するのは、自分のプライドなんだよね。かっこよく見られたいとか、そういう欲があると野生にはなれないわけ。だからかっこいい役者さん、たとえば高倉健さんなんかカレーとかこぼせないじゃん。おれらはこぼれたら「うわ、こっちもこぼしてみる?」みたいにバランスとるから。

なぎら:それでいつもカレーの香りがしたりするんだよ。なんたって野生だからね(笑)。

取材・文=荒井理恵 撮影=中惠美子

COLORFUL
2022年11月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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