「どうしたら楽に命を絶てるのか…」コミュ障で、いじめられっ子で、引きこもりだった女性作家が語った闇落ちしていた過去

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闇に堕ちる君をすくう僕の噓

『闇に堕ちる君をすくう僕の噓』

著者
斎藤千輪 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575526189
発売日
2022/11/10
価格
792円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

イジメ、引きこもり、自殺願望……自身の体験を小説に落とし込み「救い」を描く──斎藤千輪『闇に堕ちる君をすくう僕の嘘』刊行記念インタビュー

[文] 双葉社


斎藤千輪氏

引きこもりの実体験を元に、闇を抱える少女を救う物語『闇に堕ちる君をすくう僕の嘘』を執筆した斎藤千輪さん。

早生まれで発育が遅く、動作が鈍い上に言葉もうまく発せなかったことで他者との関係性を築くことに躓いた斎藤さんが、辛い過去を明かしながら、本作に込めた強い想いを語った。

前作『だから僕は君をさらう』で“逃げない”物語を描き注目された作家の素顔とは? 新作と人物像に迫ります。

■「頑張ろう」ではなく「逃げてもいいんだよ」と、伝えたい

──今作『闇に堕ちる君をすくう僕の嘘』は家族を失った青年が、ある目的のために元人気子役で“引きこもり”の少女に近づく物語です。少女の隠された過去と、青年の目的を追う長編で読み応え抜群と早くも評判になっています。また、前作『だから僕は君をさらう』の系譜を継ぐ「ボクキミ」シリーズ最新作ですが、執筆にあたって一番意識したことはなんですか?

斎藤千輪(以下=斎藤):実は、デビュー作(『窓がない部屋のミス・マーシュ』)にも引きこもりの女の子が出てくるんです。彼女が窓を塞いで開けないという設定があって、その理由を明かさず窓が開かないまま完結してしまったので、「窓が開くまでの物語をもう一度書きたい」という想いが根底にありました。そのうえで、前作の『だから僕は君をさらう』は“世間という敵から逃げずに立ち向かう”話でしたが、今回は“逃げちゃってもいい”という方向で物語を作りました。

──それこそ、イジメを受けて学校に行けなくなっちゃった子達に、ちょっと前までは、「頑張って学校に行こうよ」ってエールを送る大人が多かったですが、今は「逃げてもいいんだよ」っていう励まし方が主流になりつつありますから、その違いですかね。

斎藤:それもありますね。ルールを守ろうとしたのが『だから僕は君をさらう』の主人公・モリオだとすれば、そんなルールいらなくない? というのが今回の主人公・太輝なんです。

──2作に共通する部分として、前作が誘拐やSNSでの誹謗中傷で、今回は不登校や引きこもりが題材です。そういった社会的なテーマへの関心から物語を作られるんですか?

斎藤:正直なところを言いますと、前作も本作も自分の体験がヒントになっている部分があるんです。誘拐もされかかってるんですよね、小学生のときに。知らない男性から「道案内して」と声をかけられて、遠くへ連れていかれそうになったんです。幸い、親と待ち合わせの約束があって途中で引き返したので無事だったのですが、その時点では良い行いをしたと思ってました。でも、親に話したらすごく怒られて……。幼心に、“弱者を狙う社会悪”というものを意識した瞬間でしたね。そんな体験もあって、前作『だから僕は君をさらう』では未成年者の誘拐をテーマに選んだんです。

──今作は、引きこもりの少女が主人公ですが。

斎藤:引きこもりも実体験です。十代後半の頃、人生に絶望して家から出られなくなって。どうしたら楽に命を絶てるのか、真剣に考えていた時期があったんです。自殺の名所と呼ばれる場所を何度も調べたり、まさに闇に堕ちていたというか。

──差し支えなければ、何が原因だったか教えていただけますか?

斎藤:人との距離感や、つき合い方がよくわからなかった。いわゆる“コミュ障”だったんですよね。中学時代は吹奏楽部にいたので、言葉のコミュニケーションがなくても音楽でつながれる仲間がいたんですけど、高校で帰宅部になってからは孤立してイジメに遭うことが多くなり、徐々に他人や生きること自体が怖くなってしまったんです。

──お辛い経験ですね。物語では、過去に辛い経験をしているヒロイン・巫香を救う存在として太輝が出てきます。実体験がベースだったとおっしゃっていましたが、斎藤さんにもそういう存在がいたということでしょうか。

斎藤:いました。引きこもっていた私を、なかば無理やり外に連れ出してくれた年上の友人がいたんです。しかも近所などではなく、いきなり海外(笑)。1カ月くらいタイやマレーシアを貧乏旅行して回ったんですよ。言語も文化もまったく違う国で、現地の人たちと触れ合えたおかげで、「ああ、自分の世界は小さかったんだな」と実感できました。小さな水槽の中にいたから周りの魚が怖かっただけで、大海原に出たら自由に泳げるんだって、そこで気づけたんです。

──そんな経験が今回の作品につながったわけですね。ただ、そういう過去のご自身の辛い体験を思い出しながら小説を書くのはキツイ作業ではないですか?

斎藤:いえ、むしろ楽しいです。「こうやったら辛い状況から抜け出せるよね」「あ、こんな方法もあるんじゃない?」とか、想像しながら書くのが面白い。もしかしたら、闇堕ちしていた過去の自分へのリハビリとして書いた部分もあるのかもしれないけど、純粋に“楽しい”という気持ちのほうが強いですね。

──まさに、斎藤さんご自身も「闇堕ち」をしていた時期があるというお話でしたが、タイトルに「闇堕ち」という言葉を使われた理由を教えてください。

斎藤:タイトル会議、かなり難航したんです。ただ、「闇堕ち」という言葉が出てきたときに、この物語にピッタリだなと思いました。今回、闇に堕ちるのはヒロインの巫香一人じゃなくて、複数の登場人物に当てはまるんですよ。そして、あえて平仮名にした「すくう」という言葉にも、複数の意味がありますよね。そのあたりを考慮しながら読んでいただければ、タイトルの意味がわかってもらえるかと思います。特にラストの一行、ある漢字に着目していただくと、ちょっとした発見があるかもしれません。それから、本来なら漢字で書くところを、わざと平仮名にした箇所もあります。なぜそうしたのか、気づいていただけたらうれしいです。

──前作では、大切な人を守るために主人公は罪を犯します。前作も今作も、まだまだ庇護されるべき存在である少女を青年が守る。そこは共通している部分ですね。

斎藤:そうなんです。こういったシリアス系の作品だけでなく、グルメ系のライトミステリーなども書いているのですが、その大半に「弱いものを誰かが守る話」が登場するんです。守られる存在は少女だけではなくて、幼い子どもだったり動物だったりするし、守る側は女性だったりもするのですが、多分、それも自分の体験から来ているんだと思います。私、今はうるさいくらいしゃべるようになっちゃったんですけど(笑)、昔はしゃべれない子どもだったんですよね。

──思ったことを相手に上手に伝えられなかった。

斎藤:そうですね。早生まれで発育が遅くて、動作も鈍いし言葉もうまく発せない。幼少期からコミュ障のイジメられっ子で、誰かと会話するのが本当に苦手でした。もう、小説や漫画だけが友だち状態のボッチ(笑)。当時はそれが普通だと思ってたんですけど、今振り返ってみると、本当は誰かに話して助けてほしかったのかな……。だから、少女や動物のような“声なき弱きものを守る話”を繰り返し書くのかもしれませんね。とは言え、前作の紫織も今回の巫香も、ただ守られるだけの少女ではなく、大きな強さや聡明さを秘めている。それが発揮されるシーンは書いていて爽快でした。

──ここまで伺ってきて、斎藤さんが陥っていたような状況に今悩んでいる若い子が、本作や前作を読んだ時に、救いになる可能性はありますよね。

斎藤:そうなってくれればいいな、という気持ちは少しだけあります。あんまり声高に言うと偉そうで嫌なんですけど、自分自身が「こんな生き辛い世界なんて消えてしまえばいい」って昔は思っていたから、同じように感じている人が、今の時代に増えているのも理解できる気がするし。だからと言って、「生きていればいいことがある」なんて、軽々しく言いたくはないんです。あくまでもエンターテイメントとして楽しんでもらって、「明日も生きてみようかな」って、ちょっとでも思ってもらえたらいいですね。

──前作、そして今作に共通しているテーマを考えると、年齢性別問わず、自分の力ではどうにもできない境遇に置かれている方たちに、読んでもらいたいなと思ってしまいます。

斎藤:私の作品だけでなく、救いのある物語から勇気をもらえることってあると思うんです。私自身もそうでした。諸先輩方の作品を読んで、救われたことが多々あります。きっと、どんな困難に見舞われても、解決方法はいくつかあるんですよね。そこから逃げちゃってもいいし、立ち向かってもいい。時には今回の主人公・太輝のように、嘘だってついていい。生き辛さを感じているすべての方々が、誰かが何かから救われるエンタメに触れて、ほんの少しでも解決のヒントを見出していただけたらいいな、とは思いますね。

──最後になりますが、次作の構想とかはありますか?

斎藤:はい。前作、今作と読んでくださった書店の方に、「今回もすごくエモかった」って言っていただいたんです。エモいって、感情が動いたってことですよね。今後も、そんなご感想をもらえるような物語を作っていきたいです。

──ありがとうございます。次作も期待しております。

COLORFUL
2022年11月13、4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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