子どもの発想力や論理的な思考力を伸ばすショートショートの魅力 「情熱大陸」出演の作家・田丸雅智が語る

インタビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

夢巻

『夢巻』

著者
田丸雅智 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575519051
発売日
2016/07/14
価格
662円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

海色の壜

『海色の壜』

著者
田丸雅智 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575520248
発売日
2017/08/07
価格
641円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ベルをはがすとペットボトルが寒がって、震えだしたら?「情熱大陸」などメディア出演多数の著者・田丸雅智氏が伝える「短編」よりも短い「ショートショート」の魅力

[文] 双葉社

 短くて不思議な物語「ショートショート」。その書き手として現在最前線に立つ田丸雅智氏の代表作『夢巻』『海色の壜』の2点が、双葉文庫版として電子版配信を開始した。

 ピース・又吉直樹氏主演により短編映画化された「海酒」(『海色の壜』収録)や、NHK国際放送で紹介された「綿雲堂」(『夢巻』収録)、『世にも奇妙な物語』で映像化された「大根侍」(『夢巻』収録)など、幅広くメディアで取り上げられた田丸版ショートショートの魅力と、現在のショートショートの盛り上がりについて、田丸氏にお話を伺った。

■読んでも、書いても楽しいのがショートショート!

──「ショートショート」は、簡単に言うと短くて不思議な小説のことで、1話およそ5分で読めてしまう作品も多いです。今、ショートショート専門の文学賞「坊っちゃん文学賞」や、ショートショートの投稿サイトでも日々多数の作品が生み出され、改めてジャンルとしての盛り上がりを見せていますね。

田丸雅智(以下=田丸):じつはショートショートは10年ほど前まではすっかり下火になってしまっていました。なので、ここ数年の盛り上がりは本当にうれしい限りです。ぼくが審査員長を務めさせていただいているショートショート専門の賞「坊っちゃん文学賞」において、2020年度には9,318作ものご応募があったりと、たしかな熱気を感じています。

──9000通以上も! 文学賞としては、かなり多い応募数ではないでしょうか。なぜ今、ショートショートの人気が再燃しているのでしょうか。

田丸:いろいろな理由があると思いますが、そのひとつは現代という時代との親和性があるのではと思っています。ショートショートは1話5分ほどで読めるので、電車の待ち時間や寝る前の時間など、ちょっとしたすきま時間ですぐに読むことができます。何かと忙しい現代人にぴったりな形式ですし、SNSの台頭で短いものに親しむ人が増えたことも理由のひとつかもしれません。

──長時間の読書が難しいときでも、電車1駅ぶんの時間で物語が完結するというのは嬉しいですね。

田丸:もちろん、ショートショートが純粋におもしろいから、というのも前提としてあるはずです。単に短い時間で読めるだけでなく、あっという間に非日常の世界に飛べて、そこで待ち受けている結末に驚かされたり、笑わされたり、ほっこりしたり、しんみりしたり。読後には、まるでいろいろな味の入ったドロップ缶を傾けるときのように、次に出てくるお話に思いを馳せて心が躍る。そんな魅力も、少しずつ伝わっていっているのかなと思います。

──現代ショートショートの旗手である田丸さんは、ご自身でもショートショートの書き方講座を行い、どなたでも作品を書くことができる体験を提案しています。実際に自分で書いてみたいと思ったとき、ショートショートの魅力はどのようなところにありますか?

田丸:まず、短いがゆえに書く時間も長くはかからないというのが一番の魅力だと思っています。ぼくは執筆活動と並行して、全国各地の学校や企業などで、ショートショートの書き方講座を開催しているのですが、ショートショートなら90分ほどの時間内でアイデア発想から作品完成、発表までを行えてしまうんですね。

──一般的に「小説を書く」というのは難しい作業に思えますが、90分で誰でも書けるというショートショートは、執筆の入門編としてぴったりかもしれませんね。

田丸:ふだんは作文が苦手だという子供たちも最後は筆が止まらなくなって、「もうショートショートの宿題を出してほしい!」といううれしいご感想もいただきます。読書や作文などに苦手意識を持たれている大人の方でも、やり方しだいで誰でも書けるのはショートショートの強みですね。ぼくの書き方講座の内容は、一部の小学4年生の国語の教科書にも採用され、学校の授業でもショートショートをとり上げていただいています。

──ショートショートというと、さまざまなイメージや概念をお話の中で自由に変えていったりするという印象があり、身近なところから想像力を膨らませる楽しさがあります。

田丸:おっしゃるように、もう一つのショートショートの魅力は、創作に親しむことで物事の見方が変化するところです。たとえばペットボトルひとつとってみても「ラベルをはがすとペットボトルが寒がって、震えだしたら?」という感じで、日常的に「もしこうだったら?」という空想がよぎるようになるんですね。結果、見慣れていたはずの光景が彩り豊かに輝きはじめ、日常が楽しくなります。また、ショートショートの創作は文章力に加えて発想力や論理的思考力を磨くことにもつながっていきます。なので、プロの作家を目指すわけではなくても、趣味としてもショートショートの創作をオススメしています。

■これが売れなかったら、と背水の陣で挑んだ作品集

──今回、電子版配信される『海色の壜』『夢巻』の2冊は、田丸さんの代表作も多数収録されています。この2冊については、田丸さんは特にどのような思いがありますか。

田丸:この2冊は先述の通り、ショートショートがとても厳しい時期にさまざまな奇跡的なご縁で出していただけた本なので、思い入れはとても強いです。特に単著デビュー作の『夢巻』は、これが売れなかったら作家として大きくつまずいてしまうのはもちろんのこと、ショートショート自体も「やっぱり売れないからダメだ」となってしまう可能性が高かったので、大きな不安がありました。その一方で、だからこそいっそう、自分のすべてを詰め込まないと、という意識を強く持てたようにも思います。
 結果として『夢巻』と『海色の壜』は、今でもいろいろな方によく挙げていただく作品を収録することができました。うれしくありがたいことだなと思うと同時に、この2冊は自分が超えるべき指標にもなっていて、今でも眺めているとおのずと身が引き締まります。

──今回電子版が配信される一方、紙版の『海色の壜』は、現在品薄となっており、なかなか書店で見つからない状況です。どうしても紙で欲しい場合は、どのようにしたらよいでしょうか。

田丸:実は、版元さんの在庫数の関係で、残念ながら紙の本の形では手に入りづらくなっています。ご要望さえ多ければ増刷できる可能性もあるようですので、よろしければ書店さんで注文のリクエストをお願いできればうれしいです。
 それと同時に、ショートショートはなんといっても手軽に読めることが魅力なので、同じく手軽に読める電子版もチェックしてみていただきたいです。特に今回は期間限定で割引キャンペーンも行いますので、ぜひこの機会にお手に取っていただければうれしいです!

──田丸さんはショートショートで、これからどんな作品を書いてみたいですか?

田丸:まず、引き続き、読んでくださった方の日常の見え方がよい意味で変わるようなものを書いていきたいなと思っています。「こんなのありえない! いや、でも待てよ、もしかしたら……?」と感じていただけるような作品で、現実と非現実の境目もどんどんなくしていきたいですね。
 また、まだ書いていない題材やテーマにも積極的に挑戦していきたいなと思っています。ショートショートは本にまとめるという意味でも数を書かないといけないのですが、ぼくはショートショートならたくさん書ける、書いていいとポジティブに考えていますので、まだまだ開拓していきたいですね。たとえば、ここ数年は企業とのコラボ企画などで未来をテーマにした作品を執筆する機会が増えているのですが、5年、10年先の近未来における日常を描いたような作品にもさらに挑戦していきたいです。

──最後に、読者のみなさんへメッセージをお願いします。

田丸:ショートショートはちょっとしたすきま時間で読めてしまうので、まずはお気軽に手に取っていただければうれしいです。そして、読むだけではなく、ぜひ書くことにもチャレンジしていただきたいです。
 ショートショートの世界はとにかく自由で、楽しいものです。ショートショートの輪を、ぜひ一緒に広げていきましょう!

COLORFUL
2022年11月15、16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク