このままだと悲惨な未来が待ち受ける就職氷河期世代 40代非正規雇用が生き残る手段を佐々木俊尚が語る

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人生を“逃げ切れない世代”=就職氷河期世代は「人生100年時代」をどう生きるか。佐々木俊尚氏推薦!『マンガでわかる年収400万円からのライフシフト2』

[文] 双葉社


佐々木俊尚氏

 人生100年時代といわれる現代において、「働き方」だけでなく、「生き方」を変えることを提唱した書籍『LIFE SHIFT―100年時代の生存戦略―』(東洋経済新報社)が老若男女問わず関心を集めベストセラーとなった。

 長寿化だけでなく、働き方や価値観も変化したことで、これまでの常識が通用しなくなってきたことが注目を集めた要因だろう。続編も刊行され、シリーズ累計70万部に及び、東洋経済新報社と双葉社によるコミカライズも実現した。

 本記事では、地方在住の40代エッセンシャルワーカーを主人公にした『マンガでわかる年収400万円からのライフシフト2』(双葉社)の刊行を記念して、作家でジャーナリストの佐々木俊尚さんに、非正規雇用のまま40代になった方が、50、60代になったときにどうやって生き延びていくかについてお話を伺った。

これからの人生を逃げ切れる世代と、逃げ切れない世代

──佐々木さんは、色々な場所で『LIFE SHIFT』について言及をされていますが、どのような箇所を興味深いと感じられているのでしょうか?

佐々木俊尚(以下=佐々木):もともと、長寿や人生100年時代に興味があったんです。どこまでも寿命が延びていったら、旧来の「教育・仕事・引退」の3ステージでは足りなくなるのは明らかですしね。私は、2000年くらい、それこそ2ちゃんねる発祥の時代からネットをウォッチしています。その頃20代の若者だった団塊ジュニア世代は、もう40代後半。どんどんおじさんおばさんになって、一部が“老害化”していると批判されることもあるんですよね。
 この世代は就職氷河期世代なので、非正規のまま40代になっている人も多いです。この世代の人たちがどうやって100歳まで生きるのかを、もうちょっと真面目に日本社会としても考えたほうがいいんじゃないかな、というのはずっと思っていたので、『LIFE SHIFT』そして『LIFE SHIFT2』の問題意識とマッチしているところがありました。
 60代前後の人を見ていると、なんとか終身雇用の会社にしがみついて、そのまま定年まで逃げ切れればいいと思っている人っていっぱいいますよね。でも、40代はもう逃げ切れない。逃げ切れる世代と逃げ切れない世代で、くっきり分かれつつあるのが、今の日本の現状なんじゃないかなと見ています。

──『マンガでわかる年収400万円からのライフシフト2』の主人公もまさに40代です。

佐々木:マンガを読ませてもらいましたが、物語もそのキャラクター設定も面白かったです。40代の、ゴミ清掃車で資源回収の仕事をする人(主人公)と『LIFE SHIFT』を結びつけているのは画期的だなと思いました。

──ストーリーのリアリティに関してはどうお感じになりましたか?

佐々木:さきほども話したように、危機的な世代が今の40代。優秀なんだけど例えばコンビニでアルバイトで働いているような人も多いんですよね。もちろんコンビニで働くことが悪いことではないんだけど、一方で非正規雇用の身分なので、これから50、60代になったときにどうやって生き延びていくのかという問題もあります。
 彼らは正規職に就く努力をしてきたのに報われなかった人が多い。そもそも日本が正規雇用と非正規雇用の格差をほったらかしにしていたのが最大の問題とは思いますが、その一方で「正規職に就かなくてもいいから色々な仕事をしてなんとか食っていく方向」にマインドをチェンジしていくしかないんじゃないかなと思うんです。そういう人たちにとっても、少しキャラ設定がマンガっぽいとはいえ、元プロボクサーで清掃の仕事をしている主人公はすごく共感を持てるんじゃないかと思います。

副業のあり方は戦前に回帰していくのではないか

佐々木:あと、主人公が新しいスキルを身につけて副業をするわけではなく、元プロボクサーという経験を生かした副業をはじめたところも良かったです。
 副業の話になると、「かっこいい仕事をいくつも掛け持つ」というイメージになりがちじゃないですか。Web制作をやるとか、カフェオーナーをやるとか。でも私は、本来の副業のあり方は戦前に回帰していくんじゃないかと思っています。

──戦前? というとどういうことですか?

佐々木:日本人の大半がサラリーマンになったのは戦後の話であって、戦前の正社員って財閥系で働いているエリートなんです。大半の人は、農家や、工場労働者、零細自営業をしていました。零細自営業というのは、夏はかき氷を売って、冬になると大福餅を焼いて売るとか、そういう感じのありとあらゆる仕事をしている人たちのこと。
 農家も、田んぼでお米をつくるだけじゃなく、冬になるとわらを編んで靴をつくるとか、ありとあらゆる仕事をしていました。そうやって、色々なことで収入を得てなんとか日銭を稼いでいたのがかつての日本人でした。それが戦争が終わって高度経済成長が起きて、みんなが企業社会に回収されていって……、「とりあえず企業に頼っていれば大丈夫」という感じの社会になっていったわけです。

──サラリーマンとして一生同じ会社で働くというロールモデルは戦後に生まれたということですね。

佐々木:そうですね。ただ現在の日本は経済の地盤沈下が激しくて、会社に依存できなくなってきている。そうすると、良くも悪くも戦前のように、細かい仕事を色々やって稼いでいく方向に戻らざるを得ないんじゃないかと思います。
その意味で、このマンガの副業はボクシングジムの手伝いだったり、お弁当屋さんだったり、うまいところを突いていて「かっこつけなくてもいいよ」というところに落とし込んでいるのが、僕はとても好感が持てました。

──このマンガをきっかけに副業をはじめようと思う人に、佐々木さんがアドバイスをするとしたらどのような内容になりますか?

佐々木:「かっこいい仕事なんかしなくていいから普通の仕事を掛け持ちして食べていこう」でしょうか。ただ一方でやりすぎてつらくなるのは良くないですね。ダブルワークというとつらいイメージがありますが、そこのバランスをどう取るかという話じゃないかなと思います。

──『LIFE SHIFT2』でもわくわくするとか、楽しい気持ちがないとダメだ、という内容があります。そこですね。

佐々木:そうですね。仕事にもよるし個人差があるのでなかなか難しいんですけれど、たとえばワーケーションってありますよね。ああいう言葉が出てきたときに、「え!? リゾート地まで行って働くの?」と思うか、「働きながら海で泳げるって最高じゃん!」と思うかは、マインドなんですよね。マインドを切り替えて、仕事を楽しむ方向に持っていくことは大切だと思いますね。

──最近、知識やスキルを学び直す「リスキリング」が注目を集めていますが、このマンガのなかでは、元々持っているコミュニティ、自分の「無形資産」を広げる、自分自身の棚卸しをするためのアプローチなどが紹介されています。副業をするうえでこの点についてはどう思われますか?

佐々木:ゴミ収集の仕事をしている主人公が、いきなりDXやAIとかを学びはじめたらちょっと違和感がありますよね。それよりも、ボクサー時代を思い出して、自分の身体が覚えていることで副業を始めた流れが自然で良かったと思います。
 学びは大事です。でも、40を過ぎてゼロの状態から新しいスキルを覚えて仕事に繋げるのはやっぱり無理があると思うんです。それよりも、自分の中にある、過去に置いてきたスキルを棚卸ししてみる。そうやって、自分の持っているコアなものをまず見つけて、それに追加していく感じで学びを入れるのがいいと思います。

実用マンガは本質をすくい上げているので入り口として最適

──『マンガでわかる年収400万円からのライフシフト2』は、原著の要点をマンガで学べる実用マンガです。「読むのが大変なビジネス書や人文書をマンガで手軽に」という流れについて、活字の書き手である佐々木さんはどう感じていますか? 危惧みたいなものを抱かれていたりするのでしょうか?

佐々木:危惧はまったくしていません。最近出した『読む力』という本でも書いたんですけど、必ずしも原典に当たる必要はなく、入門書から入って全然OKだと思っています。だから、このマンガを読んでそれで満足してもいいし、さらに関心を持ったなら原著を読めばいいと思いますね。
 学びというのは、入り口のハードルは上げないほうがいいと思うんです。実用マンガのいいところは、本質をすくい上げているところ。私は、「教養とは知識ではなくてものの見方である」と考えているんです。
 本に書いてあることを羅列的にリストアップして、それを暗記したら教養になるかというと、ならないですよね。そうじゃなくて、「この本に書いてあることはこういうことなんだ」という核心を一言で言える“まとめ”みたいなものが頭の中に入る方が大事です。このマンガは、そこをスポンと抜き出してくれているわけだから、そこさえ学べれば十分といえば十分ですし、入り口にはとてもいいと思います。

──今回、同じ『LIFE SHIFT2─100年時代の行動戦略』を原作として、東洋経済新報社さんから『まんがでわかる LIFE SHIFT2』、双葉社から『マンガでわかる年収400万円からのライフシフト2』が同時に刊行されます。こういった試みはどう思われますか?

佐々木:あまり聞いたことがないので面白い試みだなとは思います。たしかに東洋経済さんと双葉社さんでターゲット層が全然違うと思うので、それぞれ刺さるところでやっていくというのはメディア戦略としては面白いですよね。
 双葉社さんのマンガは、「漫画アクション」的な古き良き時代のマンガだなと思いましたし、マンガにも色が出ていますよね。ボクシングのシーンから始まるのはしびれました。

──ありがとうございます! 作家さんにもさっそくお伝えしますね。

佐々木:物語としてもよくできているし、これからの生き方の指針にもなっているし、とても素晴らしいマンガだと思います。今までの実用マンガとかビジネスマンガにはない描かれ方で画期的でした。普通にマンガとしても面白いので、40代50代の人でまだ『LIFE SHIFT』を読んでいない人にはおすすめだと思います。

取材・文=砂流恵介

COLORFUL
2022年11月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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