出版不況でも本が売れる!『変な家』の覆面作家「雨穴」とTikTok小説紹介「けんご」が語るバズらせ方

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変な絵

『変な絵』

著者
雨穴 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575245677
発売日
2022/10/20
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

覆面作家・雨穴×小説紹介クリエイター・けんご特別対談

[文] 双葉社


雨穴氏

 チャンネル登録者数75万人超えの推理系ユーチューバーにして、「ネット界の江戸川乱歩」とも呼ばれる作家・雨穴氏。10月20日に上梓した自身初となる書き下ろし長編小説『変な絵』(双葉社)は、全国主要書店の週間ランキングで1位を独占し、早くも32万部を突破している。

 今回、そんな雨穴氏のファンであり、自身も今年『ワカレ花』(双葉社)で作家デビューを果たした、小説紹介クリエイターのけんご氏の対談が実現。動画クリエイターとしても活躍するお二人が、創作活動について語り合った。

■“新時代”の到来を思わす作家の誕生

けんご:実は僕自身、雨穴さんのファンで、ユーチューブにアップされた動画もすべて拝見しているんです。『変な絵』もすごく面白くて、読んですぐにTikTokに紹介動画を投稿させていただきました。

雨穴:ありがとうございます。先ほど、動画を拝見しまして、“こんなにも面白い紹介の仕方があるのか”と驚きました。視聴した方が本を買いたくなるような構成になっていて、素晴らしいです。

けんご:ありがとうございます。今回、『変な絵』は9枚の絵を中心に91枚の絵が挿入されていますよね。“絵”を題材に選んだのはどうしてですか?

雨穴:去年の7月に、「消えていくカナの日記」という絵を題材にした動画を公開したのですが、その評判がよくて……。怖い絵やイラストは、昔からネット上でも話題になることが多かったので、みんな好きなんじゃないかなと思って、選びました。

けんご:絵にSOSが込められている話ですよね。面白くて、僕も5回は拝見しています(笑)。『変な絵』というタイトルが発表されたときも、真っ先にその動画が思い浮かんで、今度はどんな絵の話なのかなってずっと楽しみにしていました。いたるところに、図形やイラストがあって読みやすく、まだまだ小説にはこういった可能性があるのかって思わされました。イラストはすべて、雨穴さんご自身で制作されたんですか?

雨穴:はい。メインである、ブログに投稿された「風に立つ女の絵」や消えた男児が描いた「灰色に塗りつぶされたマンションの絵」、山奥で見つかった遺体が残した「震えた線で描かれた山並みの絵」をはじめ、多くの奇妙な絵を描きました。それぞれが、ストーリーを読み解くうえでのカギになっています。

──一方のけんごさんは、“花”や“四季”をモチーフにしてデビュー作『ワカレ花』をご執筆されました。

けんご:僕の場合、小説紹介クリエイターとして小説を紹介する立場だったので、出版のお話をいただいて、いざ書く立場になってみると何を書けばいいのか分からなくて……。だからまず、僕のSNSのフォロワーが中高生の方や女性の方が圧倒的に多いので、そういった方々に求められているものは何なのかを考えたんです。その結果、花や四季を題材にしようと。そこが一番苦労した点ですね。

雨穴:私は題材に関しては、絵で書こうと決めていたのですが、常に時間との戦いで……。ミステリー小説なので、時間と戦いながら話の整合性をとっていくというのに、すごく苦労しました。

けんご:この間も、普通に動画投稿をされていましたよね。ほんとに驚きです。僕は、僕のもとに届く「“先生と生徒の恋”の話が読みたいです」とか、「花をモチーフにした作品を教えてください」といったコメントからインスピレーションを受けて、創作活動をしているのですが、雨穴さんは小説を書くにあたって、何かそういうヒントにしているものはありますか?

雨穴:他の方の作品を読んでいるときに面白いなと思ったところや、印象的だった言葉や文章などから、ヒントを得ています。

──大勢のファンがいらっしゃるお二人ですが、本を出版した反響も大きかったのではないでしょうか。

けんご:はい。次の作品はいつ出すんですか?って連絡が来たりして、中高生の女の子を中心にすごい反響がありましたね。

雨穴:デビュー作『変な家』のときは、反響が二極化していたと思います……。ふだん、本を読み慣れていない方から読みやすかったとか、初めて本を最後まで読めたとかいう、お話を聞けてすごく嬉しかったです。でも、その反面、ふだんから本をたくさん読まれている方からすると、物足りないという反応がありまして……。

──『変な絵』では、そんな前作の経験を生かした点もあったのでしょうか。

雨穴:それはすごくあります。読みやすいっていう点を維持しながら、本を読み慣れた方が読んでも満足してもらえるように意識して書きました。完璧にできたとは思いませんが、深くて高度な物語性と心理描写などを両立させた作品になったと思います。

けんご:前作の経験が、かなり生きている小説でもあるんですね。

雨穴:はい。その経験がなければ『変な絵』は書けなかったと思います。

──今回、『変な絵』は“小説×ユーチューブ動画×音楽”という出版界初の試みになります。けんごさんの『ワカレ花』も音楽とコラボしていたりと、お二人は出版業界に新風を巻き起こしているわけですが、新しい読者層を得るために意識していることはありますか。

雨穴:私の小説を購入してくださる方は、どちらかと言えば、雨穴の動画をふだん見てくださっている、本を読み慣れていない方だと思います。そのため、新しい層を取り込むというよりは、自分の動画を見てくださる方にフィットするように、作品作りを行っている感じです。

けんご:僕は今でこそ、TikTokで30万人の方にフォローしていただいて、たくさんの方に見ていただけるようになったんですけど、いつも意識していることは雨穴さんとは逆で……。フォロワーの方にではなく、小説を読んだことのない、まだ小説の面白さを知らない方に向けて動画を作るようにしているんです。雨穴さんは、ファンの方に向けて書いているにもかかわらず、雨穴さんのことを知らなかった人たちにもその作品が届いている。まさに新しい小説の時代、“新時代”を切り拓くような方だなって、いろんな意味で驚かされますね。


けんご氏

■互いに衝撃を受けた異彩を放つ動画とは

──お二人は、動画クリエイターとしても活躍中です。

けんご:僕が動画をアップしているTikTokは、オススメ欄に偶然流れてきて運命的な出会いをし、レコメンドされていくショートムービーのプラットフォームなんですけど、雨穴さんが動画をあげているユーチューブはそうじゃない。視聴者に選んで見てもらわないといけないですし、選んでもらえたからには視聴者を満足させる良質なコンテンツでないといけないんです。雨穴さんは、動画を見てもらうために意識していることはありますか?

雨穴:自分が面白いと思うものを作っても、視聴者に面白いと思ってもらえるとは限らない。もしかしたら、自分の面白いが人とずれているかもしれない。なので、工夫するというよりかは、とにかく頑張って作る。幼稚かもしれませんが、自分が持てる力を全部つぎこんで、とにかく高度な映像を作る。そういう気持ちでいつもやっています。

けんご:なるほど! 雨穴さんの動画って、毎回、ほんとにクオリティが高くて……。今のユーチューブって、動画の長さが30分を超えるものが当たり前のような時代になってきていると思うんです。僕としては、あまり長い動画はどうなのかなって思うんですけど、雨穴さんの動画って長ければ長いほど嬉しくて(笑)。コメント欄を見ても、雨穴さんの動画は50分とか、長いものであるほど、めちゃくちゃ嬉しいというものが多い。ほんとに類を見ないユーチューバーなのかなって思っています。

雨穴:ありがとうございます。嬉しいです。

けんご:僕自身も、動画クリエイターとして見習わなければ……!

雨穴:恐れ多いです……。私はふだん、TikTokを見ないのですが、けんごさんの動画を拝見して驚きました。こんなにも興味をそそられる本の紹介は、今まで見たことがないです。本を紹介するとき、台本を先に考えているんですか?

けんご:そうですね。僕は、話す内容を事前に、一言一句書き起こしています。『変な絵』も今日(対談日)書き起こして、今日撮影して、今日投稿したんです。読んですぐに台本を作って、撮影・編集を行っている感じですね。

雨穴:台本を考えるときに気をつけていることってありますか?

けんご:僕は小説を読んだことのない方に向けて動画を制作しているので、“よけいな文言を抜く”ってことを意識していて……。たとえば、東野圭吾さん。今や日本のエンタメ小説界を引っ張っている大作家さんだと思うんですけど、小説に興味ない、東野圭吾さんすら知らない人って僕はたくさんいると思っているんです。なので、東野圭吾さんの小説を紹介するときに、「これは東野圭吾さんの最新作です」と紹介するのではなくて、その作品の良さだけを伝えることを意識しています。

雨穴:ガワは一切省いて、コンテンツのことだけを伝えるって感じなのですね。どの動画も大変魅力的だったのですが、東野圭吾さんの『白夜行』の紹介動画を見たときに、他の人の紹介の仕方と違うなと思いまして……。あの本の魅力を他の人に伝えるときに、確かにあの動画の作り方はすごく効果的というか、『白夜行』を紹介するときに最適なやり方だなと思って、個人的に感動しました。

けんご:すごく嬉しいです(笑)。ありがとうございます!

──最後に、それぞれ『変な絵』と『ワカレ花』の読みどころを教えてください。

雨穴:『変な絵』は、91枚のイラストと一緒にミステリーの謎を解くなど、本当に読書が好きな方だけでなく、読書に慣れていない方でもスラスラ読むことができる本格派ミステリー小説になっています。1章に関する動画(この絵の仕掛けが解けますか?『変な絵』 第一章 ― YouTube)はすでにユーチューブで公開していますので、ぜひご覧ください。また、第1章「風に立つ女の絵」の朗読動画(62分)も特典としてついていますし、物語の「あとがき」にあたる音楽動画もYouTubeにアップしています。本作の謎解きの最大のヒントが歌詞に込められていますので、小説と一緒に見て聞いて楽しんでいただけますと幸いです。よろしくお願いします。

けんご:『ワカレ花』は、主に中高生の方々がこの作品をきっかけに、小説の面白さや感動、成功体験を感じてほしいと思って書きました。この小説が、有名な作家の皆様が書かれた名著と呼ばれる作品への入口になりましたら嬉しいです。まだ小説を読んだことのない方に、ぜひ読んでいただけたらと思います。

COLORFUL
2022年11月17,18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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