カーボンニュートラルという“信仰” 流行的言説の欺瞞と矛盾を突く好著

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エコファシズム 脱炭素・脱原発・再エネ推進という病

『エコファシズム 脱炭素・脱原発・再エネ推進という病』

著者
有馬 純 [著]/岩田 温 [著]
出版社
扶桑社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784594091958
発売日
2022/10/21
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

カーボンニュートラルという“信仰” 流行的言説の欺瞞と矛盾を突く好著

[レビュアー] 岩間剛一(和光大学経済経営学部教授)

 タイトルは刺激的だが、エネルギー・温暖化問題の専門家と気鋭の政治学者が対談で冷静かつ客観的な議論を展開する本書。「地球温暖化などない」「原発は絶対安全だ」という偏った思想を喧伝するものでは決してない。

 日本では、こと脱炭素、脱原発の話となると、それを絶対的な正義とする主張の前に議論が封殺され、思考停止に陥りがちだ。カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)を神の与えた使命であるかのごとくに新聞は奉じ、企業も経営理念に組み入れざるを得ない。こうした動きはまさにファシズム(全体主義)だと本書は喝破する。

 本書は、世界最大の二酸化炭素排出国となった中国を非難しない環境保護団体の実態を暴く。そして、脱炭素の流れが中国を太陽光発電パネルの世界最大の輸出国へと押し上げ、中国を利するだけとなっている皮肉、ドイツが環境先進国を標榜して再生可能エネルギーの導入を推進しながらも、実は石炭火力発電に依存し、フランスの原発でつくられた電力を大いに利用している矛盾などを解説してみせる。

 本書には「グリーンリッチ」「リムジンリベラル」という面白い用語が登場する。電気料金等の値上げを負担と思わぬ富裕層ほどカーボンニュートラルを口にし、テスラのような高価な電気自動車を買う傾向があることを揶揄する言葉だ。米国には、これらガソリン価格の高騰や物価上昇を苦痛に感じず、ファッションとしてカーボンニュートラルを唱える富裕層がいる一方、最低限の生活を維持するためにガソリン価格の下落を望む貧困層もいる。電気さえ利用できない貧しい人々は世界に7億人以上を数える。彼らには脱炭素よりも、安くて安定した電力のほうが重要だ。長期的な視点から地球環境保護を考える必要はあっても、安価な石炭火力発電による電気の供給を優先すべきだという指摘は正鵠を射ている。

 脱炭素の流れとウクライナ危機の勃発は、エネルギー安全保障と電力需給の安定化の重要性を浮き彫りにした。脱炭素の流れが新規の油田・天然ガス田の開発を抑制し、そこへコロナ禍の鎮静化に伴うエネルギー需要増がやってきて、原油、天然ガス、石炭の価格が高騰している。LNG(液化天然ガス)価格の高騰で、貧しい国は発電のための燃料を入手できなくなった。

 先ごろ80億人を超えたとされる人類すべてが、最低限の生活を保障された快適な世界を求めている。そのことに環境原理主義は真剣に向き合っているのか。本書が鳴らす警鐘の意味は重い。

新潮社 週刊新潮
2022年12月22日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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