『子どものことを子どもにきく』
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子どもの言葉、大人の驚き。 インタビューで記録する8年間の成長
[レビュアー] 北村浩子(フリーアナウンサー・ライター)
以前、新潮OH!文庫から出ていた『子どものことを子どもにきく』がちくま文庫より復刊された。児童書作家の杉山亮氏が、年に1回、息子の隆さんにインタビューした記録だ。3歳から10歳までの子どもの言葉、それに対する大人の驚きが生のままパッケージされている。
普段と違う空気を作るため、インタビューは外食しながら行われる。3歳の隆さんに著者はこう聞く。「字が読めなくて困らない?」うん、と答える息子。ここはなんて国? 今何時だ? と(試すのではなく)さらに訊ねる。答えは「わかんない」。それでもやっていけるのか、すごいなあと父は感動する。
4歳の時の、飛行機に乗るにはまず飛行機を作らなければならないという主張、保育園の思い出を語った6歳の時の「先生がいなくても困らない」という言葉。その時点での知識を総動員した子どもの答えも面白いが、親らしさは保持しつつ「相手のことをよく知る親しい人」という距離感で話をする著者の姿勢になにより感銘を受ける。インタビューを10歳で終えた理由も誠実で尊い。
8年間の成長は語彙が増えていく過程に見て取れる。今井むつみと針生悦子による論考『言葉をおぼえるしくみ』(ちくま学芸文庫)は、言語を獲得するメカニズムを膨大な心理学の実験によって解明する一冊。難解ではあるが〈子どもたちがどのようにことばの意味を学習し、語彙を構築していくかを考えることは、私たちが心にもつ語彙とはどのような情報を含み、どのような性質のものなのか、という問いにも踏み込むことである〉という一文に象徴される、言葉そのものの不思議に迫っていく理論の展開はたまらなくスリリングだ。
大人が言葉を習得する、すなわち外国語を学ぶ際に必要な方策を余すところなく伝授してくれるのは、25年間に16ヵ国語を身につけたハンガリー出身のロンブ・カトーによる『わたしの外国語学習法』(米原万里訳、ちくま学芸文庫)。とかく外国語の学習は道半ばに終わってしまうものだが、本書があればきっと挫けない。