<東北の本棚>アイヌの蜂起 真相探る
[レビュアー] 河北新報
1789(寛政元)年、和人による非人道的な交易や強制労働に耐えかねたアイヌ民族が東蝦夷地(現北海道東部)で蜂起し、現地にいた松前藩の足軽や番人ら71人を殺害した。この史実は「クナシリ・メナシの戦い」などと呼ばれている。宮城学院女子大名誉教授の著者は、和人側の資料を批判的かつ丹念に読み解き、戦いの真相と歴史的位置付けに迫ろうとした。
当時は松前藩がアイヌとの交易権を独占し、藩の請負商人らがアイヌを雇っていた。しかし、報酬の搾取や理不尽な使役、性的暴力などが絶えず、その横暴に対してアイヌが反逆。鎮圧に乗り出した松前藩が、和人を殺害したとされる37人を死罪にしたという。
当時のアイヌがどんな不当な扱いを受けていたのかを著者は検証。藩によって事件がどのように裁定され、その後のアイヌの運命にどんな影響を与えたのかも精査している。
クナシリ・メナシの戦いについて、著者は単なる復讐(ふくしゅう)事件、経済的な問題と捉えていない。近代に向かおうとする当時の社会状況を踏まえ、幕藩社会の中に、江戸から遠い地方に暮らす人々を下に見る華夷(かい)秩序的な政治文化があり、このことも民族的な差別・暴力を生み出す精神的な土壌となってきた、と分析する。
また、この戦いは蝦夷地の経済的な価値やロシアの存在に幕府の目が向く機会にもなった。著者は、国家が重たくアイヌにのしかかる「近代の困難」の始まりであったと解釈。今後も史実の検証に取り組む必要性を説く。「そのことがアイヌの人々の権利の回復と未来、そして日本の民主社会の前進と、なにがしかつながっている」と結び、歴史学の役割を強調している。
著者は1950年青森県五戸町出身。立教大大学院文学研究科博士課程単位取得退学。専門は日本近世史。仙台市泉区在住。(沼)
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