高齢出産のスリリングな現実 そして、命を授かる喜び

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56歳で初めて父に、45歳で初めて母になりました - 生死をさまよった出産とシニア子育て奮闘記 - - 生死をさまよった出産とシニア子育て奮闘記 -

『56歳で初めて父に、45歳で初めて母になりました - 生死をさまよった出産とシニア子育て奮闘記 - - 生死をさまよった出産とシニア子育て奮闘記 -』

著者
中本 裕己 [著]
出版社
ワニ・プラス
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784847072345
発売日
2022/11/25
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

高齢出産のスリリングな現実 そして、命を授かる喜び

[レビュアー] 篠原知存(ライター)

 夕刊フジ編集長である著者が新人だったころ、評者もライバル夕刊紙の記者だった。数々の現場で競った(負け続けだったなぁ……遠い目)という同期の仲なので遠慮なく書かせてもらうが、骨の髄まで記者だよねえ、というのが一読しての感想。

 50代半ばで子供を授かって「すごい!」と喜んでいたら、妊娠7カ月目に奥さんがおたふく風邪にかかってしまい、ウイルスが心臓に飛んで心筋炎が劇症化。命の危険が迫るなかで帝王切開手術に踏み切るものの、赤ちゃんはNICU、奥さんはICUで治療を受けることに。

 妻子が生死の境をさまようなんて想像するだけで胸が詰まる。それでも著者は客観的視点を失わない。体験した状況が軽妙かつ解像度の高い文章で再現されていく。もちろん不安や焦りも行間にたっぷりにじむので、読んでいるこちらはハラハラドキドキ。まったくもう。

 ご懐妊の経緯から妊娠・出産を見守る心境、孫でもおかしくないほどの年齢差育児のあれこれ、最後に明かされる奇跡的な事実など、読みどころ満載。評者も45歳で初めて父になりましたが、育児の面白さと先行きの不安については、ほんとにその通り、と何度もうなずいた。

 グッときちゃったのは母子対面の場面。出産後に母が子を抱くのは定番のシーン。でも母子は別々の病棟で治療中。しかもコロナ禍の真っ只中だ。医療スタッフはベッドごと移動させる大技で対面を実現させる。

 診療科の壁を越えた患者ファーストな病院の尽力が、なんと治癒につながる。〈この日を境に、妻の病状はあきらかに快方に向かった〉。医学的には説明がつかないと断りつつ、〈数字には表れない医療現場の最高の恩恵に浴した〉と記す著者。

 キャッチーなタイトルで引きつけて、ぐいぐい読ませるところが夕刊紙っぽい。ピンチにも怯まず人生の後半戦を楽しんでいる。オレも頑張ろ、という気分になれた。

新潮社 週刊新潮
2022年12月29日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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