高齢出産のスリリングな現実 そして、命を授かる喜び
[レビュアー] 篠原知存(ライター)
夕刊フジ編集長である著者が新人だったころ、評者もライバル夕刊紙の記者だった。数々の現場で競った(負け続けだったなぁ……遠い目)という同期の仲なので遠慮なく書かせてもらうが、骨の髄まで記者だよねえ、というのが一読しての感想。
50代半ばで子供を授かって「すごい!」と喜んでいたら、妊娠7カ月目に奥さんがおたふく風邪にかかってしまい、ウイルスが心臓に飛んで心筋炎が劇症化。命の危険が迫るなかで帝王切開手術に踏み切るものの、赤ちゃんはNICU、奥さんはICUで治療を受けることに。
妻子が生死の境をさまようなんて想像するだけで胸が詰まる。それでも著者は客観的視点を失わない。体験した状況が軽妙かつ解像度の高い文章で再現されていく。もちろん不安や焦りも行間にたっぷりにじむので、読んでいるこちらはハラハラドキドキ。まったくもう。
ご懐妊の経緯から妊娠・出産を見守る心境、孫でもおかしくないほどの年齢差育児のあれこれ、最後に明かされる奇跡的な事実など、読みどころ満載。評者も45歳で初めて父になりましたが、育児の面白さと先行きの不安については、ほんとにその通り、と何度もうなずいた。
グッときちゃったのは母子対面の場面。出産後に母が子を抱くのは定番のシーン。でも母子は別々の病棟で治療中。しかもコロナ禍の真っ只中だ。医療スタッフはベッドごと移動させる大技で対面を実現させる。
診療科の壁を越えた患者ファーストな病院の尽力が、なんと治癒につながる。〈この日を境に、妻の病状はあきらかに快方に向かった〉。医学的には説明がつかないと断りつつ、〈数字には表れない医療現場の最高の恩恵に浴した〉と記す著者。
キャッチーなタイトルで引きつけて、ぐいぐい読ませるところが夕刊紙っぽい。ピンチにも怯まず人生の後半戦を楽しんでいる。オレも頑張ろ、という気分になれた。