TikTokでも話題沸騰、20万部超の人気作家! 少年犯罪の裏にある少年少女の孤独とは  『暗闇の非行少年たち』松村涼哉インタビュー

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暗闇の非行少年たち

『暗闇の非行少年たち』

著者
松村, 涼哉, 1993-
出版社
KADOKAWA
ISBN
9784049147605
価格
748円(税込)

書籍情報:openBD

TikTokでも話題沸騰、20万部超の人気作家! 少年犯罪の裏にある少年少女の孤独とは  『暗闇の非行少年たち』松村涼哉インタビュー

[文] カドブン

取材・文 吉田大助

■松村涼哉の最高傑作!新刊『暗闇の非行少年たち』著者インタビュー

2019年の刊行から反響が続き、TikTokの口コミでさらに評価された『15歳のテロリスト』が、20万部越えのロングセールスを記録中。ライト文芸を主舞台に活躍する松村涼哉が、1年ぶりとなる最新作『暗闇の非行少年たち』を発表した。デビューから7年近く、少年犯罪という題材と真剣に向き合ってきたからこそ到達できた、最高傑作だ。これまでの道のりと共に、本作に込めた思いを伺った。

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TikTokでも話題沸騰、20万部超の人気作家! 少年犯罪の裏にある少年少…

■場所も時間も関係なく集まれる
自助グループとしてのメタバース

――『暗闇の非行少年たち』は、18歳の水井ハノが女子少年院を出る場面から始まります。それから2ヶ月後、ハノは名古屋の繁華街・栄にある通称「ブル前」で風邪薬をオーバードーズし、パパ活をしている友人たちと会話を交わす。以前に逆戻りです。そんなある日、ティンカーベルと名乗る人物から「ネバーランド」というメタバースへの招待状を受け取ります。そこへアクセスすると、それぞれの事情を抱えた数名の人物がいて……。本作の着想は、どこから出発したのでしょうか?

松村:少年犯罪について調べていくうちに、少年院や刑務所を出た若者たちが集まって話をする、自助グループというものがあることを知ったんです。罪を犯した経験のある人同士だからこそ、他では言えないような自分の過ちについて話せるし、お互い支え合うこともできる。素晴らしい営みだと思ったんですが、集会は基本的に都市部で開催されるんですよね。そこへ移動して集まること自体にハードルがあるし、参加できずに孤立している子供たちも世の中にはいるんだろうなと思ったんです。自分が住んでいる場所は関係なく、好きな時に集まって話ができる場所があったらいいのにな、と。そこから、メタバース上にできた自助グループというアイデアを思い付きました。

――SNSや掲示板などで繋がることもできますが、アバターをまとったうえで会話をするメタバースでのコミュニケーションには、独特の濃度がある。そのことが、小説から伝わってきました。

松村:この作品を書くにあたって、VRゴーグルを買って自分でもメタバースをやってみたんです。相手に近付けば声がよく聞こえるし離れたら声は遠ざかる、臨場感がある。目の前に本当に人がいて、話をしているような感覚になりました。SNSや掲示板を介して言葉をやりとりするよりも、こちらの方が自分の感情を打ち明けやすいんじゃないかなと思ったんです。

――ハノは両親を亡くし、今は就職先の居酒屋の社員寮で暮らしています。ある事情で、彼女にとって居酒屋の仕事は苦痛なんですよね。でも、大丈夫だと強がってしまい、周囲の大人たちに本音を告白できない。彼女の人物像はどのように構築されましたか。

松村:これまで少年犯罪についていろいろと書いてきた中で、今回は更生をテーマにしようと思いました。そこで一番最初に閃いたのが、更生を頑張りたいけど社会はそれを受け入れてくれない……という対立構造に悩む主人公でした。ただ、資料を詳しく読んでいくうちに、それは違うなと。例えば、更生する人たちが「助けて」と言えなければ、周囲も助けられない。ただただ社会とか周りの大人が悪い、というのは一面的な見方だなと思ったんです。そういった資料を読みながら「こういうキャラがいいな」と思い浮かんだのが、ハノという主人公でした。彼女はただ単に社会に更生を妨げられた被害者ではなくて、彼女自身も内面的な問題を抱えているんです。

――そんな彼女がどうやって更生への一歩を踏み出すのか。そこに、ネバーランドが関わってきます。その場所の主であるティンカーベルの言動がキーになっていくのですが、抑制が利いているんですよね。自分で考えてみなさい、というヒントを提示しているだけなんです。

松村:分かりやすい答えをポンと提示できれば早いんですけど、そんなものはないですよね。ティンカーベルがそうあろうとしているように、あくまでこの集まりは自助グループだし、お互いに身の上話をして、同意だったり共感だったりをする中で、改めて自分のことを考えるという趣旨がある。ヒントのようなものはもらえるとしても、そこから自分で考えて行動に移しているからこそ、人生に変化を起こすことができるんだと思うんです。

■悪いだけでもなければ良いだけでもない
グレーな空間としての「ブル前」

――第22回電撃小説大賞<大賞>を受賞した2016年刊のデビュー作『ただ、それだけでよかったんです』に始まり、ブレイク作の『15歳のテロリスト』、そして今作と、松村さんは一貫して少年犯罪を題材にした小説を数多く執筆しています。その理由とは?

松村:デビュー作は少年犯罪を書いたというよりも、いじめという題材に向き合ってみようと思って書いたものでした。その作品で賞をいただいたので、2作目もデビュー作に近いカラーのものがいいのかな、と。いじめについて少し広い視野で調べていくうちに、少年犯罪に関するいろいろな問題を知りました。例えば、少年犯罪は子供の貧困問題にも繋がっているし、非行少年に対して児童相談所はどんなサポートをしているのかといった社会問題にも繋がっている。そういった現実を知ったことがきっかけで、少年犯罪にまつわる物語を書きたいという気持ちにどんどんなっていきました。『15歳のテロリスト』は、「いじめは少年法でどう扱われるのか?」という興味から着想が生まれたものです。

――デビュー作のあとがきを読むと、大学時代に社会学を専攻されていたようですね。そこで学んだ社会を見つめる視点が、小説に生かされている部分はありますか?

松村:あります。社会学のゼミの教授からよく言われていたのは、個人の犯罪といったミクロな問題でも、社会のマクロな話と結びつけて同時に見るということ。自分が小説を書くうえでも、個人のドラマと、個人を取り囲む社会の存在を紐付けようと意識していますね。

――個人のドラマと社会問題を重ね合わせた作品は、「社会派ミステリー」と呼ばれることがあります。特に今回の『暗闇の非行少年たち』は、当該ジャンルの感触があります。『Aではない君と』などで知られる薬丸岳さんとの想像力の共鳴も感じました。

松村:薬丸岳さんの名前を出されてしまうと、めちゃくちゃ緊張します(笑)。薬丸さんの作品は、少年犯罪が題材の小説を書こうと思った時に出合ったんです。綿密に取材したうえで、罪を犯した少年たちの心に寄り添っていく。薬丸さんの作品はある種の理想だなと感じましたし、自分もこういう作品が書けるようになれたらと思いました。『万引き家族』など是枝裕和監督の映画からも影響を受けています。孤立した状況にある子供たちを、どうにかして人や社会と繋げたい。そういった自分の中にある願望を、小説で書き続けている気がします。

――前作『犯人は僕だけが知っている』でも、少年少女たちの避難所が主な舞台に選ばれていましたよね。本作では、ネバーランドというメタバースと、それからリアル世界にある名古屋の「ブル前」も避難所となっている。「ブル前」は実在の場所なんですか?

松村:架空の場所ですね。名古屋にはドン横、「ドン・キホーテ横」という場所があってそこに若い子たちが集まっていたらしいんですが、栄広場が閉鎖されてしまい、今は別の場所に移動しているようです。ただ、自分が住んでいて書きやすいから名古屋を選んだだけで、実際にイメージしたのは新宿・歌舞伎町の「トー横」です。

――歌舞伎町の新宿東宝ビルの横の通路は、居場所のない若者たちが集まることで知られている。「トー横キッズ」という言葉は、犯罪絡みのニュースで聞くことが多いです。

松村:深夜徘徊やパパ活といった子供たちの犯罪の温床となっている場所だ、というふうに悪い部分だけを書きたくはなかったんです。そういう側面ももちろんあるんですが、心に傷を負った子供たちが集まって心の内を話す、ある種の避難所的な場所でもある。そういう場所を大人たちが作れなかったから、子供たちはそこに集まるしかなかったとも言えるんですよね。悪いだけでもなければ良いだけでもない、グレーな空間として「ブル前」を書いてみたいと思いました。そこを居場所にせざるを得なかったような子たちのために書いた物語でもあるんです。

■非行少年と読者の心を繋げるための
サッポロ一番袋麺

――第2章以降は、ネバーランドに集まったハノ以外の人物の物語となっていく。一章ごとにクライマックスが訪れる、連作短編のようにも読めます。密度が濃ゆいです。

松村:今回のような構成は初めてだったんですが、自分には合っていたなと思います。今までは最後まで書いたら大半を修正して、また修正してを繰り返していたんですけど、今回は最初から自分の中でしっくりくる物語ができあがりました。章ごとにキャラの視点が変わったおかげで、一人一人としっかり向き合えて、目の前の章に集中しながら書けたんだと思います。

――第2章は、親友と大型バイクを盗難し、二人乗りで無免許運転を犯した挙句に転倒、親友を死亡させた……という罪責感に苦しむ17歳の少年・木原真二の物語です。クライマックスでガラッと価値観が反転する、ミステリーとしても鮮やかです。

松村:事件のニュースが流れて見出しだけチラッと見て、「とんでもない犯人だな」と思って、実際にニュースの本文を読んでみたら最初の印象と違った……ということって、日常生活でもよくあるじゃないですか。ミステリーを意識したというよりも、その印象の変化に注目して書いたら、そのままミステリーになった感じです。

――第3章はある過ちを犯した少女の物語ですが、ここで更生というテーマが前面に現れますね。

松村:今回のテーマは更生にすると決めて調べていった時に、いろいろな人が「更生とは人生をかけて行うものだ」と語っていたんですが、「そもそも更生って何なんだろう?」という疑問が湧いてきたんです。結論、とは言えないような結論として思ったのは、更生のかたち、更生の捉え方は一人一人違うのかなと。じゃあハノにとって、真二にとって、他の登場人物たちそれぞれにとっての更生はどんなものになるんだろう……と考えていく時間が一番長くかかった気がします。

――第4章以降は物語がギアチェンジし、現実で事件が勃発するとともに、ネバーランドが生まれた謎もクローズアップされます。読者の楽しみを削がないためこれ以上は口をつぐみますが……サッポロ一番の挿話にグッとくるはず、とだけは伝えたいです。

松村:ありがとうございます(笑)。育児放棄された子供が大人になって感じた社会とのギャップを表現しようと思った時に、サッポロ一番の袋麺って結構作るの大変だったなあって、一人暮らしを始めた頃の経験をふと思い出したんです。コンビニで買えばその場で食べられるカップラーメンとは違って、袋麺は家でお湯を沸かすためのガスコンロや鍋と器も必要で、ひと手間かかる。そういう家庭環境が整っていなければ、知ることのない世界なんですよね。「自分にとって当たり前だと思うものも、その人にとっては当たり前ではない」ということを伝えるうえで、サッポロ一番は象徴的に使えるんじゃないかと思ったんです。読者にとって心理的な距離があるかもしれない非行少年という存在を、どう伝え、彼らとどう繋がってもらうかは、常に考えていました。

■少年犯罪の当事者ではない自分が
作家としてできることは

――少年犯罪というテーマや子供たちの避難所といったモチーフを受け継ぎながら、アップデートを施している。ミステリーとしてもレベルアップしていて、ドラマとの融合も見事でした。そのうえで、本作が最高傑作たるゆえんは、これまでで一番、物語の中に作家の「声」を感じたからなんです。少年たちのために自助グループとしてのネバーランドを作ったティンカーベルと、本作の小説世界を生み出した松村さんの心理には、シンクロする部分があったのではないでしょうか?

松村:自覚があったわけではないんですが、そうかもしれない……と今思いました。『暗闇の非行少年たち』は、『15歳のテロリスト』のヒットのおかげで、SNSやファンレターなどで読者さんの感想を聞く機会が増え、自分の作品がちゃんと届いている、という実感を持ちながら執筆することができたんですよね。その実感が、この作品にとってプラスに作用したのかなと思います。

――作品に込めた思いが届いている、伝わっている。だからこそ自分は何をすべきか、という思いがクリアになっていった?

松村:その気持ちです。僕自身は、親から虐待を受けて育ったわけでもなく、普通に大学まで行かせてもらった、たまたま運が良かっただけの人間なんです。専門家でもないし、当事者でもありません。そういう自分が、少年犯罪が題材のエンタメ的な物語を書くことに、申し訳なさがずっとあったんです。でも、読者さんから僕の作品を通して社会問題に興味を持ったとか、大学で少年犯罪について勉強することに決めたという声が届くと「書いてよかった」と。少年犯罪の当事者ではない自分が作家としてできることがあるとしたら、作品を通して、当事者の方々の問題に気付くきっかけを作り、現実にプラスになるような流れをほんの少しでも生み出すことなんじゃないかなと思っています。そして、読者の方に、僕の作品から何かしらの光を感じてもらえたとしたら、これ以上嬉しいことはないなと思うんです。

■プロフィール

松村涼哉(まつむら・りょうや)
大学在学中に応募した『ただ、それだけでよかったんです』(電撃文庫)が、第22回電撃小説大賞<大賞>を受賞し、2016年デビュー。ヒットを果たす。2019年3月刊『15歳のテロリスト』(メディアワークス文庫)は発売直後から大重版がつづき20万部を突破する代表作に。「第16回うさぎや大賞」では、『15歳のテロリスト』が大賞、『僕が僕をやめる日』が3位に同時受賞し話題となった。
他著に『監獄に生きる君たちへ』『犯人は僕だけが知っている』、最新作『暗闇の非行少年たち』が2022年12月発売に。閉塞した現代社会の闇と、そこに生きる少年少女たちの孤独な闘いを描く作家性に、熱い注目が集まっている。

KADOKAWA カドブン
2022年12月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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