袋とじの挑戦状に何百もの伏線、世界中がゾンビになる話まで “圧倒”のミステリー&サスペンス4選

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[本の森 ホラー・ミステリ]『あなたへの挑戦状』阿津川辰海・斜線堂有紀/『侵略少女 EXIL girls』古野まほろ/『猿と人間』増田俊也/『ゾンビ3・0』石川智健

[レビュアー] 村上貴史(書評家)

まずは遅ればせながら九月刊行の『あなたへの挑戦状』(講談社)を紹介する。阿津川辰海斜線堂有紀という二人の人気作家が競作した一冊であり、各自の中篇が一本ずつ収録されている。阿津川辰海の中篇では、建物二階分の深さの水槽と防火シャッターで構成された密室状況でカナヅチの男が殺されたという謎に警官コンビが挑む。各節で著者が「この四人の中に、被害者も、そして犯人もいる」などと前口上を述べたり、図面が多用されたり、極めて意外なかたちで名探偵が活躍したりと、本格ミステリファンを愉しませてくれる。続く斜線堂有紀の中篇は、人気者の妹を持った兄の心を殺人事件とからめて描く。絵を描くことをやめホテルで働く兄と、絵で人気者となり美大を受験する妹。兄に宿る嫉妬心と親愛の情を巧みにサプライズと結びつける著者の腕前には感嘆するしかない。そして読者はこの二篇を読んだ後、袋綴じの「挑戦状」を開封することになる。そこに待ち受けるのは、また別の種類の驚きだ。巻末の競作執筆日記やミニ対談を含め、ミステリの愉しみを多面的に味わえる一冊。

古野まほろ『侵略少女 EXIL girls』(光文社)は、『終末少女 AXIA girls』『征服少女 AXIS girls』に続く〈天国三部作〉の完結篇。著者は、新型コロナの罹患後症状のため、本書を最後に商業出版の第一線から身を引くという。節目の作品だ。

 少し未来の日本。卒業を迎え、徹夜の伝統儀式を進めていた七人の女子高生たちが〈誤差領域〉に迷い込んだ。天国の手前にあるというその謎めいた領域で、彼女たちは様々な経験を重ねる。怪鳥に襲われ、天使と言葉を交わし、仲間が殺され……。その後、著者が顔を出して○○を殺したのは誰かと読者に挑戦する。そしてその先を読んで読者は気付く。挑戦状までに、過去二作と同様、数百もの伏線が張られていたことに。まさに“圧倒”されるのだ。なお、本書は単体でも十分に愉しめるが、三部作の読者は最後の数頁を僅かながら余計に愉しめることを付記しておこう。

 最後に二作品。増田俊也『猿と人間』(宝島社)と、石川智健『ゾンビ3・0』(講談社)だ。前者は、父に連れられて山奥の集落に鴨猟に来た高校一年生の男子が、八五〇頭の猿に襲われるという小説。猿たちによって多数の死者が出るなか、彼は集落の八三歳の老婆と、猿の研究に来ていた二一歳の女子大生とともに、ほぼ徒手空拳で、生き残るべく闘う。後者は、世界中でゾンビ発生という状況下、予防感染研究所に休日出勤していた面々が、ゾンビ化の原因究明と自分たちの生き残りを目指す物語だ。いずれも危機また危機で退屈とは無縁のサスペンス。満足度は極めて高い。しかも(まことに勝手ながら)二冊続けて読むと、環境問題の描き方や主人公の生き残りへの姿勢における相違が、それぞれの作品ならではの造りになっていることを深く理解できて、なんだか得した気分になる。

新潮社 小説新潮
2022年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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