中国の100年以上に及ぶ社会の変化を、5人の姉妹を通して描く 中国湖南省出身の作家・盛可以による大河小説『子宮』

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

子宮

『子宮』

著者
盛 可以 [著]/河村 昌子 [訳]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784309208695
発売日
2022/10/26
価格
3,080円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

女性四代、八人以上の女たちの運命『子宮』 盛可以 著/河村昌子 訳

[レビュアー] 三浦天紗子(ライター、ブックカウンセラー)

中国湖南省出身の作家・盛可以による小説『子宮』(河出書房新社)が刊行。湖南省益陽の農村に生まれた五人姉妹の激動の運命を描いた本作の読みどころを、ブックカウンセラーの三浦天紗子さんが語る。

 ***

 中国湖南省益陽の農村に生まれた戚念慈(チー・ニエンツー)から始まる初(チユー)家の女たちの生き方が、百年に及ぶ中国社会の変化を背景に描かれていく。戚念慈やその娘の呉愛香(ウー・アイシアン)が味わった閉塞感は、呉愛香が産んだ娘たち(六人、うち五女は夭折(ようせつ))や息子の嫁、孫の世代に移るにつれ、選択肢は増えたが、それは結局彼女たちの悩みを深くしただけかもしれない。

 長女・初雲(チユー・ユン)や次女・初月(チユー・ユエ)は、国家の要請に従って、二子をもうけた後に卵管結紮(けつさつ)をしたが、初雲は夫以外の異性に心惹かれたために再開通させようと考えたりする。三女の初冰(チユー・ビン)もまた、息子を産んだ後に子宮リングを入れた。ところが、のちに外そうとして失敗、子宮を失う。四女の初雪(チユー・シユエ)も不倫相手の子を中絶して不妊になり、一方で、夫の愛人が身ごもるという事態に陥る。姉たちの事情を知る六女・初玉(チユー・ユー)は、妊娠出産そのものへの恐怖と嫌悪が強く、それが恋人との関係をギクシャクさせていく。初家唯一の息子・初来宝(チユー・ライバオ)と妻・頼美麗(ライ・メイリー)(涙なしには聞けない妊娠エピソードあり)の一人娘、初秀(チユー・シウ)は十六歳で身ごもり、産むか堕ろすかをめぐって家族紛争に……。無自覚に女性たちを傷つけ、それでいて自分はジェントルマンなつもりでいる彼女たちの夫やパートナーの欺瞞(ぎまん)が、舌鋒(ぜつぽう)鋭く皮肉交じりに暴かれていくのは痛快だ。

 本書のキーとなるのは子宮。結婚の失敗や不倫、中絶や流産、避妊の責任、計画出産の義務、情欲の始末、閉経等、子宮を持つがゆえの身体性が女性の人生をかき回していく。そのどうしようもなさが活写された本書には、友人たちのとめどない欲望と嘆きと意思表明で埋め尽くされたおしゃべりを聞いているかのようなリアリティがあり、圧巻の面白さだ。

光文社 小説宝石
2023年1・2月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク