小肥り痛風持ちの映画オタク刑事が……黒川博行の警察捜査小説『連鎖』のリアルな捜査過程の描写が圧巻

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連鎖

『連鎖』

著者
黒川博行 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784120055942
発売日
2022/11/21
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

リアルな捜査過程の描写が圧巻!『連鎖』 黒川博行

[レビュアー] 西上心太(文芸評論家)

直木賞を受賞した『破門』や疫病神シリーズで知られる黒川博行の警察捜査小説『連鎖』(中央公論新社)が刊行。食品会社の社長の遺体発見後、人間関係、巨額の保険金、そして手形の行方など、調査結果から浮かび上がる複数の事件に挑む刑事を描いた本作の読みどころを、文芸評論家の西上心太さんが語る。

 ***

 食品卸会社を経営する篠原紀昭が失踪したと妻の真須美から届け出があった。経営はあまり順調ではなく、一度目の不渡りを出した直後であり、闇金業者からも脅されていたという。自殺の恐れがあるということで特異行方不明者として書類を受理。京橋署暴犯係の刑事・上坂勤と礒野次郎は、応対したいきさつもあって捜査を担当するが、翌日になって高速道路に駐められた車の中から、篠原の服毒死体が発見される。

『落英』、『桃源』に登場した小肥り痛風持ちの映画オタク刑事、上坂勤が三度登場する警察捜査小説である。相棒の悪事のとばっちりで府警本部から所轄署へ左遷。そこで手柄を立てて準A級署である京橋署に異動、というのが上坂のこれまでの経緯である。作品ごとに相棒が代わっていく趣向だろう。

 二人は事件の背後に手形のパクリ屋など反社会的勢力が関係していることを知る。そして足で稼ぐ地道な聞き込みと、Nシステムなどハイテク捜査の両面を駆使して、失踪から死体発見までの篠原の足取りを追い、空白の時間を埋めて、ついに自殺説が濃厚だった見立てをひっくり返す。このリアルな捜査過程の描写が圧巻。

 さらに当然のことながら、二人の会話が抜群に楽しい。新たな相棒の礒野は、上坂の二歳上の三十八歳バツイチの麻雀好き。互いに同じ巡査部長なので遠慮がない。コンビを組んで間もないが、礒野は上坂の刑事としてのセンスを見抜いている。二人は退勤後には酒を飲み徹夜麻雀に勤しみ、翌日には寝不足を後悔しながら、手抜きすることなく捜査に邁進する。悪徳警官ではないバディ物は、初期の大阪府警シリーズと通底する味わいがある。最近こちらも復刊されたので、あわせて読むのも一興だ。

光文社 小説宝石
2023年1・2月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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