<東北の本棚>地方と都市 融合を模索

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新地方論 : 都市と地方の間で考える

『新地方論 : 都市と地方の間で考える』

著者
小松, 理虔, 1979-
出版社
光文社
ISBN
9784334046347
価格
1,056円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>地方と都市 融合を模索

[レビュアー] 河北新報

 「観光」「居場所」「政治」「メディア」「アート」「スポーツ」「食」「子育て」「死」「書店」。身近な10のテーマで地方を論じる。好きな箇所から自由に読めるのがいい。

 いわき市小名浜在住の著者はローカルアクティビストを名乗り、地元商店街で多目的交流スペースを主宰。企画や情報発信にも力を注ぐ。大都市圏は個人が尊重される傍ら、つながりが乏しく孤立しやすいとし、片や地方は食文化や自然に恵まれ、結束力に富む半面、集団の論理が優先されがちで風通しが悪いと評する。

 地方の人たちに著者が勧めるのが、しっくりくる「ローカル」。二項対立でなく、自分の興味や関心に応じて地方と大都市双方の持ち味を程よく取り入れる「第三極」に期待を込める。

 1979年、小名浜に生まれた著者は大学進学に伴って上京。卒業後は福島市でテレビ局記者、中国・上海で日本語教師などを務め、2009年夏、地元に戻った。国内外の経験を通じて「よそ者」の視座が培われたのだろう。

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故が起きたのはUターンの1年半後。「自分の身にふりかかった災難を通じて、ぼくは自分の暮らす地域について考え始め」と後書きにある。

 模索の歩みは初めに「新復興論」(ゲンロン、2018年)、次いで「地方を生きる」(筑摩書房、21年)に描かれた。「帰る、帰らない」「食べる、食べない」「安全、危険」などの二元論に覆われ、二極化が住民の分断をもたらしたという。多様なはずの議論は内に向いた。

 主体性を持ちつつ外のまなざしを広く受け入れ、異なる価値観をしなやかに往復する心構えに目を開く。「集団ではなく個人が大事にされ、しかしそれでいて孤立はせず、個人同士がゆるやかにつながるようなコミュニティ」に地元の将来を託す。挑戦と実践はなお続く。(志)
   ◇
 光文社03(5395)8116=1056円。

河北新報
2023年1月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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