子どもたちは生きている たとえ過去を切り捨てたとしても

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太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密

『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』

著者
三浦 英之 [著]
出版社
集英社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784087817218
発売日
2022/10/26
価格
2,750円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

子どもたちは生きている たとえ過去を切り捨てたとしても

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

 アフリカ中部に位置するコンゴ民主共和国(旧ザイール)は地下資源に富んだ国だ。一九七〇年代、日本企業はこの地に進出し鉱山を開設、多数の日本人労働者が就業していた。

 二〇一六年、朝日新聞のアフリカ特派員だった著者にツイッターを通じてメッセージが送られてきた。当時、コンゴでは日本人労働者と現地女性の間に生まれた子を日本人医師と看護師が毒殺していた、と報道したことがあるか、というものだ。

 ネットで検索するとフランス24という国際ニュースチャンネルが取材し放送していたことが判明した。残された子どもたちが組織のようなものを作って活動もしているらしい。

「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称された時代に打ち捨てられたものは何だったのか。取材が始まった。

 現地で日本人残留児の支援を行っている田邊好美の協力を得て、残留児を訪ねはじめた。そこで知ったのは当時の二十代後半から四十代の日本人労働者の子どもを産んだのは十三歳から十六歳の少女たちで、父親が帰国すると事実上収入源を喪い、差別され、住む場所にも困る生活を余儀なくされたという現実だった。

 取材した多くの親子は生活の保障を求めるとともに、残留児たちは実の父親に会いたいと強く願っていた。

 彼らの多くがケイコやケンチャンなど日本風の名前を付けられていた。中には父親のフルネームと日本の住所を知っている者もいる。驚くのはその風貌だ。母親より肌の色が薄く、アジア人の面影が色濃く出ている。自分は日本人だと誇りに思っているのも共通していた。

 実際、新生児が医師に殺された事実はあったのか。当事者である父親はいまどう思っているのだろう。日本人への取材は困難を極めた。

 残された子の気持ちを読むと、戦後の日本に残されたアメリカ人を父に持つ子とだぶる。過去を切り捨て帰国した男たちに怒りが沸き上がる。同じ過ちは繰り返してほしくない。

新潮社 週刊新潮
2023年1月19日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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