「やる気を見せたら負け」 日本にはびこる「消極的利己主義」の実態

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何もしないほうが得な日本

『何もしないほうが得な日本』

著者
太田 肇 [著]
出版社
PHP研究所
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784569853437
発売日
2022/11/17
価格
1,089円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「やる気を見せたら負け」の国

[レビュアー] 佐藤健太郎(サイエンスライター)

 コロナ禍において、国産のワクチンが現れず、治療薬も出遅れたことを、製薬企業の研究員出身である筆者は歯がゆい思いで見つめていた。技術力が低下したわけではなく、やればできるのにやらなかったのだと筆者には見える。流行はすぐ終わるかも、他のプロジェクトが遅れるからなどなど、やらない理由はいくらでもつけられる。結果、多くの製薬企業は百年に一度の危機に立ちすくむばかりであり、果敢に治療薬創出に挑んだ企業だけが、そのやり方について批判を浴びる結果となった。

 これに限らず、「出る杭は打たれる」ことを避けて必要な発言や行動、改革をせず、黙ってやり過ごすことを選ぶ人が増えている。太田肇『何もしないほうが得な日本』は、我が国にはびこる「消極的利己主義」の実態を指摘・分析した一冊。経営者がいくら積極的なチャレンジを促そうと、社員たちは失敗のリスク、周囲との軋轢を避けて新たな挑戦を行わない。下手に能力があるところを見せると面倒な仕事が回ってくるから、能のないふりをする。こうした積み重ねが「失われた三〇年」につながっているとする著者の主張には、説得力がある。

 本書最終章には、解決策として各種の「挑戦するほうが得な仕組み」の構築が提案されている。だが、日本全体に深く染みついた消極的利己主義マインドの払拭は、そう簡単ではなさそうだ。ひとまず本書が、企業や教育の現場などで、広く読まれることを願う。

新潮社 週刊新潮
2023年1月19日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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