『何もしないほうが得な日本』
書籍情報:openBD
「やる気を見せたら負け」の国
[レビュアー] 佐藤健太郎(サイエンスライター)
コロナ禍において、国産のワクチンが現れず、治療薬も出遅れたことを、製薬企業の研究員出身である筆者は歯がゆい思いで見つめていた。技術力が低下したわけではなく、やればできるのにやらなかったのだと筆者には見える。流行はすぐ終わるかも、他のプロジェクトが遅れるからなどなど、やらない理由はいくらでもつけられる。結果、多くの製薬企業は百年に一度の危機に立ちすくむばかりであり、果敢に治療薬創出に挑んだ企業だけが、そのやり方について批判を浴びる結果となった。
これに限らず、「出る杭は打たれる」ことを避けて必要な発言や行動、改革をせず、黙ってやり過ごすことを選ぶ人が増えている。太田肇『何もしないほうが得な日本』は、我が国にはびこる「消極的利己主義」の実態を指摘・分析した一冊。経営者がいくら積極的なチャレンジを促そうと、社員たちは失敗のリスク、周囲との軋轢を避けて新たな挑戦を行わない。下手に能力があるところを見せると面倒な仕事が回ってくるから、能のないふりをする。こうした積み重ねが「失われた三〇年」につながっているとする著者の主張には、説得力がある。
本書最終章には、解決策として各種の「挑戦するほうが得な仕組み」の構築が提案されている。だが、日本全体に深く染みついた消極的利己主義マインドの払拭は、そう簡単ではなさそうだ。ひとまず本書が、企業や教育の現場などで、広く読まれることを願う。