タブーを知る男による部屋と賂と私
[レビュアー] 今井舞(コラムニスト)
これまでも、相撲界のタブーを臆することなく告発してきた著者。初の著書である本書は、八百長に賭博、ヤクザとの繋がり、不透明な資金の流れ等々、相撲界の暗黒面がてんこ盛り。裏話をぶちまけるだけでなく、どうすれば相撲界が良くなるか、彼なりに提言しているのが、単なる暴露本とは異なる点だ。例えば、八百長をなくすため著者が提案するのは「相撲くじ」。野球賭博で角界を追われた著者ならではのギャンブル思考かと思えば、そうではなく。「相撲くじという公営ギャンブルにして、八百長に関与する人間は刑事事件で裁いてしまおう」と。なるほど。確かに公営競技でその手の不正をすれば、ほぼ懲役刑。それくらい厳しい罰則がなければ、八百長根絶は難しいとのこと。
著者によれば、そもそも力士が八百長に走るのは、角界独特の金銭システムのせいだそうで。特に問題なのが、現役引退後、相撲協会に残り続けるために必要な年寄株。表立って売買できない摩訶不思議な仕組みにより、裏で大金を吹っ掛けられたり、権力に跪かざるをえなかったり。不透明な金の動きは、最近急増する学生相撲出身力士の周辺にも。学校と部屋を繋ぐ闇ブローカーが暗躍しているといい、そこからは日大・田中英壽前理事長への金の流れなども見えてくるという。他にも、お茶屋が儲かる前時代的なからくりや、協会理事の定年引き延ばしが招く問題等々、悪しき因習がキリなく挙げられる。早急にルールを作り、金銭授受を外から見える形にすれば全て改善するのだが、一部の人間の既得権益の為、維持され続けているという。
角界に身を置いた者ならではの、真っ当で的を射た意見の数々が、全く耳目を集めないのは、相撲協会の閉鎖性ゆえか、それとも著者のキャラクターのせいなのか。ヤクザの家に育ち、若貴兄弟と同じ部屋で過ごし、大鵬の娘と結婚し、賭博でしくじり、実業家に転じた著者。息子が角界入りしたので黙っていたが、「10年の沈黙を経て全てここに告発いたします」とまえがきにあったが。沈黙なんかしてたっけ。そんな彼による、御法度がぎっしり詰まった、逸話の宝石箱。