「教養としてのチャップリン」大野裕之著(大和書房)
[レビュアー] 堀川惠子(ノンフィクション作家)
「いま世界に、新たなチャップリンが必要だ」と言ったのはゼレンスキー大統領。本書は、その意味するところを教えてくれる。不朽の名作「独裁者」。私も最後の演説を覚えるほど観(み)た。4日違いで誕生したヒトラーとチャップリン。二人の闘いは「現代テクノロジーが生んだメディア戦争」だった。実は第二次世界大戦以前のアメリカは反ユダヤ主義が大勢で、チャップリンのナチ批判は四面楚歌(そか)だったという。最終的に笑いは狂気に勝利、ユーモアが巨悪に対する強力でリアルな武器になることを証明した。
チャップリン研究で知られる著者は本書を入門書というが、読後感は半端ない。映画「モダン・タイムス」ラストの「影の不思議」。謎を解明するため膨大なNGフィルムを分析し、ロケ地も取材。希望のシーンに込められた真の意図、その推論に驚愕(きょうがく)する。
「差別では笑えない」と、人間の多様性を重んじ、逆風でも制作の自由を貫き、巨万の富も手にしたチャップリン。その手腕に著者はビジネス成功のヒントも探るが、本書の魅力を伝えるに本欄は小さすぎた!