『骨灰』冲方丁著(KADOKAWA)/『踏切の幽霊』高野和明編(文芸春秋)
[レビュアー] 宮部みゆき(作家)
死生観 直球ホラー2作
この欄でエンタテイメント系の新刊を二作組み合わせてご紹介することを、私は「豪華二本立てロードショー」と称している。今週はその二本立てのなかでも最強の話題作が揃(そろ)った。
冲方丁(うぶかたとう)さんも高野和明さんも、既に実績も知名度もある作家だ。次にどんなタイプの新作が出てきてもおかしくない筆力の持ち主のその二人が、なぜか申し合わせたように直球ど真ん中のホラー小説を世に出した。題材は違い、作品の雰囲気もまったく異なる。共通するのは、お話の土台に「日本人の死生観」がテーマとして据えられていることだ。死を恐れ、死を穢(けが)れとして忌避し、それでいて死に惹(ひ)かれ、死後の世界を想(おも)わずにはいられない、生者の葛藤が描かれていることだ。
『骨灰』はそのものズバリ、大火や戦災や震災で犠牲となった多くの死者の「灰になるまで焼かれた骨」の上に立つ大都市東京を守る「祭祀(さいし)場」をめぐるお話だ。業務命令で迷い込んだ地下の工事現場で、主人公はたまたまその一端を目撃し、善意からあることをしでかしてしまう。東京都内の各所にはそうした祭祀場が百ヵ所以上あるといい、作中で語られる祭祀場とそれを守り受け継ぐ一族の歴史は、現実の高度経済成長やバブル景気や二度のオリンピックの華やかな歴史と重なって、恐怖のリアリティで読む者に迫ってくる。
一枚の心霊写真が発端となる『踏切の幽霊』も、東京の動脈の一本である大手私鉄線の下北沢駅近辺が主な舞台だ。ただしこちらは、中盤までは記者が一人で調べ回る静かな捜査小説の趣がある。踏切で発見された殺人事件の被害者女性の身元がどうしてもわからず、収監中の犯人から何か聞き出せないかと面会に行くあたりから、ホラー・エンジンの強力な回転音が聞こえ始めるのだ。どれほど死者に同情していても、「死」という未知の一線が此岸(しがん)と彼岸を分かつ非情さの故に、やっぱり幽霊は恐ろしい。