『死者と生きる (原題)VIVRE AVEC NOS MORTS』デルフィーヌ・オルヴィルール著著(早川書房)

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死者と生きる

『死者と生きる』

著者
Horvilleur, Delphine, 1974-臼井, 美子
出版社
早川書房
ISBN
9784152101754
価格
2,750円(税込)

書籍情報:openBD

『死者と生きる (原題)VIVRE AVEC NOS MORTS』デルフィーヌ・オルヴィルール著著(早川書房)

[レビュアー] 森本あんり(神学者・東京女子大学長)

ユダヤ教ラビが説く「死」

 成人して大人になるということは、人間の死という現実と向き合い、死者との付き合い方を心得るということである。人はそれを学ぶことで、社会を定義する文化の担い手となる。

 本書の著者は、フランスに三人しかいないという女性のユダヤ教指導者(ラビ)だ。イスラエルで医学を学び、パリに戻って編集者となり、さらにニューヨークでラビ養成講座に学んだ。その経歴から、死を隠蔽(いんぺい)する現代社会の貧しさを問い直したのがこのエッセーだ。生があるのは死のおかげである。秋の落葉は春の芽吹きを助け、子宮内の細胞死(アポトーシス)が胎児の指を形成する。生と死は協力し互いに編み込まれることで、歴史が紡がれてゆくのだ。だからヘブライ語の「命」は必ず複数形で、単数形はない。

 著者は「宗教的に中立なラビ」で、他宗教にも無神論にも自由に息づく場があることを喜ぶ。読んでみると、あの世から「お迎えが来る」とか「まだ来るな」と送り返されるとか、日本人に馴染(なじ)みの深い話もある。他方、「子を亡くした親」を表す言葉は、フランス語にも日本語にもないがヘブライ語にはあって、「果実を収穫したあとのブドウの枝」という意味だという。

 各章はまるで一つのショート小説のようで、仕掛けが炸裂(さくれつ)した時には何度も「あっ」と声をあげそうになった。ユダヤ人の得意なジョークもいくつか紹介されている。ユダヤの伝統では、家族に病人が出ると、その人の名前を変える。死の天使がやってきた時に勘違いさせて追い払うためだとか。そんなユーモラスなことを大まじめで実行するところが面白いが、これは死が全世界で無差別に家の戸を叩(たた)くようになったパンデミック下で書かれた文章である。

 最後に。幼い弟を亡くした子が、大人の慰めに混乱して「どこに行ったら弟に会えるのか」と問う。土の中か、旅先か、空のかなたか。大人になったあなたは、この問いに正面から向きあって答えねばならない。臼井美子訳。

読売新聞
2023年1月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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