『限界ニュータウン 荒廃する超郊外の分譲地』吉川祐介著(太郎次郎社エディタス)

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限界ニュータウン

『限界ニュータウン』

著者
吉川 祐介 [著]
出版社
太郎次郎社エディタス
ジャンル
工学工業/建築
ISBN
9784811808505
発売日
2022/09/30
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

『限界ニュータウン 荒廃する超郊外の分譲地』吉川祐介著(太郎次郎社エディタス)

[レビュアー] 牧野邦昭(経済学者・慶応大教授)

負の遺産 投機の果てに

 本書の著者は、東京から千葉県北東部の北総台地の貸家に移り住み、安い中古住宅を探して物件めぐりをする中で次々に奇妙な光景を目にする。駅から遠く離れた広大な畑の真ん中や森林の細道の奥深くなど、不便極まりない場所に造成され、荒れ果てた空き地が広がりツタがからみつく空き家が点在する小規模分譲地(の跡)が無数に存在していたのだった。

 なぜこのような「限界ニュータウン(限界分譲地)」が多くあり、それらはどのような問題を抱えているのかを本書は明らかにしていく。一九七〇年代の北総台地では成田空港の開港を当て込んだ開発ブームが起こり、投機を主目的とする小規模分譲地が数多く造成されたが、オイルショック後の不況により分譲地は更地のまま放置される。八〇年代のバブル経済で地価が高騰するとそれらの放置された分譲地は再び注目され住宅もある程度建設されるが、今では不在地主の存在や本来多くない住民の高齢化と転出、造成時のずさんな工事、共同インフラの老朽化により荒廃している。

 行政も把握していないこうした荒れた分譲地は、一方では首都圏にあり低価格ゆえに一定の取引がされており、まさに通常の住宅地と放棄され自然に還(かえ)っていく土地との限界的な存在となっている。土地が単なる投機目的の資産として扱われ、切り売りされたことが地域の荒廃をもたらしたことに暗然とせざるを得ない。

 一九七〇~八〇年代の日本の土地に関する「負の遺産」の清算がいまだに終わっていないことを明らかにした本書の価値は高い。もともと社会問題に関心があったと思われる著者は、限界ニュータウンの一つに住みながらその前向きな活用法も模索しており、またブログやYouTubeで限界ニュータウンだけでなく、同様に乱開発された別荘地やリゾートマンション、そして原野商法の問題にも鋭く切り込んでいる。著者の今後の活躍に期待したい。

読売新聞
2023年1月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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