書籍情報:openBD
未来の技術と人間を描くSF テクノロジーで変わる未来
[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)
親戚の子にPayPayでお年玉を送り、スマホひとつで新幹線に乗る。どんどん便利になる世の中だが、その先に何があるのか?
『フォワード 未来を視る6つのSF』(東野さやか他訳)は、まさにそういう“テクノロジーで変わる未来”をお題に、当代アメリカの人気作家たちが競作したアンソロジーだ。
集中のベストは、編者のブレイク・クラウチ自身による120ページ超の中編「夏の霜」。ゲーム中のキャラクターが枠から外れた不可解な挙動を見せたため、ゲームから切り離し、膨大な量のデータを与えてみたところ、どんどん学習して成長し、やがて……。人間を超えたAIがモンスター化する定番のサスペンス――かと思いきや、意外な結末が待ち受ける。
N・K・ジェミシン「エマージェンシー・スキン」は、2020年のヒューゴー賞ノヴェレット部門受賞作。とっくに生命が死滅したはずの地球に帰還してみたら、意外にもそこには高度な人類文明が……。星新一風の古めかしいアイデアを鮮やかにアップデートした秀作だ。日本でも人気絶頂のアンディ・ウィアーのコンゲーム小説「乱数ジェネレーター」はカジノに量子コンピュータを導入して大儲け……みたいな話に冴えたオチをつける。
音楽の世界もテクノロジーで一変し、CDは絶滅寸前。音楽サブスクやライブの配信視聴は当たり前になり、実体のないVTuberの曲がとつぜんネット上で大ヒットしたりする。
2020年のネビュラ賞長編部門を受賞したサラ・ピンスカー『新しい時代への歌』(村山美雪訳、竹書房文庫)は、そういう音楽の未来を幻視する。舞台は相次ぐテロなどにより有観客ライブが禁止された近未来アメリカ。ライブは大手配信会社と契約してVRで体験するしかないが……。日本人にも他人事ではない、今、ここにある問題だ。
未来の技術と人間を描くSFの決定版は、グレッグ・イーガン『万物理論』(山岸真訳、創元SF文庫)。前半で主人公が取材する“行き過ぎた科学(フランケンサイエンス)”の数々は今もインパクトがある。