『ゾンビ3.0』石川智健著(講談社)
[レビュアー] 宮部みゆき(作家)
ゾンビものの映画やドラマが苦手だ。本書もおそるおそる読み始め、やっぱり駄目だと思ったらすぐページを閉じるつもりだった。
実際には、主人公たちを悩ませる謎また謎の興趣に引っ張られて、ノンストップで読んでしまった。私と同じようにゾンビに苦手意識のある方にも安心してお勧めできる、本書はゾンビパニック・スリラーではなく、上質の謎解きミステリーだ。もちろん恐怖のシーンはいくつもあるが、ちっとも強くないけど感染症の研究者というプロ意識で頑張る生真面目なヒロインが支えになってくれる。
近未来のある日、東京都内でゾンビ現象が発生。またたく間に犠牲者が増えて大混乱となり、社会活動は停止。自衛隊が動き出すものの、想定外の事態に鎮圧活動はすぐ手詰まりになってしまった。噛(か)まれて感染しゾンビになる犠牲者と、ただ捕食されるだけの犠牲者にはどんな違いがあるのか。現象が拡大するにつれて、ゾンビがいないところでも、あたかも空気感染したかのように新たなゾンビが現れるのは何故なのか。全ての答えを「3.0」が握っている。