『新地方論』小松理虔著(光文社新書)
[レビュアー] 鵜飼哲夫(読売新聞編集委員)
地方再生の妙案はない。だからこそ地方論がひっきりなしに出版されるのだろう。新鮮な食材、豊かな自然をPRしようとの提言も相次ぐが、成功するのは一部。しかも、それで喜ぶのは名産品を買い、観光する「外の人」が大半で、地元は置き去りになりがちだ。
その点、福島県いわき市で地域活動家として情報発信する著者は、いかに居心地がよい暮らしができるかに焦点をすえ、「自分ごと」として地方の未来を考え、とてもユニークだ。アート、スポーツ、子育てなど10テーマからなる提案に決定打はない。それよりも『新復興論』で大佛次郎論壇賞を受けた著者が、都市や地方での様々な対話と活動を通じて、「ハッと」啓発されたことをもとに、「こんな風にやってみないか?」と呼びかけ、人々を巻き込む力に持ち味がある。
つい懸命にやるあまり、地元の青年たちに、「被災地の若者」「福島の未来ある若者」という役割を押しつけたことはないか、と反省する率直な姿勢も好感が持てる。世の中を変えるために、まず自分たちを変えようとする。はじめの一歩の地方論である。