『寿命が尽きる2年前』
書籍情報:openBD
『寿命が尽きる2年前』久坂部羊著(幻冬舎新書)
[レビュアー] 西成活裕(数理物理学者・東京大教授)
医師が勧める幸せな最期
何ともインパクトのあるタイトルである。ただ健康に関する本は売れるけど、死と向き合う本は売れないらしい。それでも「寿命が尽きる2年前」は誰もが知りたいと思うのではないだろうか。それが分かったら、どう生きていけばよいのだろうか。何とかもっと長生きできないかと先進医療などを調べるかもしれないし、運命を受け入れて思いっきりやりたい事をして残りを過ごす、という選択肢もあるだろう。自分ではまだ結論が出ていないが、著者は後者の生き方を勧めている。これまでたくさんの最期を看取(みと)ってきた医師の言葉であるが故に、とても考えさせられた。
私は昨年、父を看取った。今思えば、父の最後の2年間は趣味三昧の日々で、木工工作や電子工作を楽しんだりしながら、とても充実した生活を送っていた。その姿を見ていただけに、最後は自分のしたいように生きるべし、という本書の言葉は私の心に強く響いた。
読んでいてハッと思ったのは、健康とお金は似たようなもの、という言葉だ。お金は何かをするための手段に過ぎないが、それがいつの間にか目的になってしまうことがよくある。そしてどれだけ手に入れても、もっと欲しくなるのが人間の性(さが)だ。健康も同じで、人生における目的達成のための手段の一つではないだろうか。したがってある程度長生きできれば、さらなる延命ではなく、足るを知る、という境地もあり得るだろう。もちろんそれまでどれだけ悔いのない人生を送ってきたかにも関係するので、話はそう単純ではない。
実際にその2年前の状況になったら、著者自身もどういう選択をするかは分からないと正直に述べている。やはり運命を受け入れるのは相当な覚悟が必要だと思う。そもそも医学的に言っても2年前が正確にいつかは分からないそうだ。だから「今でしょ」と考えて人生を送るのが結局幸せに死ねる秘訣(ひけつ)なのかもしれない。普段あまり考えたくない死というものについて、本書はその向き合い方の良いヒントを与えてくれるだろう。