『〈新解釈〉コーポレートファイナンス理論 : 「企業価値を拡大すべき」って本当ですか?』
- 著者
- 宮川, 壽夫, 1960-
- 出版社
- ダイヤモンド社
- ISBN
- 9784478116715
- 価格
- 1,980円(税込)
書籍情報:openBD
『新解釈 コーポレートファイナンス理論 「企業価値を拡大すべき」って本当ですか?』宮川壽夫著(ダイヤモンド社)
[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)
画一的企業統治に疑問
コーポレートガバナンス(企業統治、以下CG)コードを通じてCG改革を図り、「企業価値の向上」を目指す動きが始まってから約8年が経過した。2度の改訂を通じ、CG体制のあり方が検討され、企業は投資家の意向も踏まえつつその体制整備を行なって来た。
本書はコーポレートファイナンス(企業財務、以下CF)理論やCGを巡る諸問題について、これまでの学説を踏まえながら多方面から検討を加え、現在のCGコードについてはその画一的で単純化された解釈に疑問を投げかける。
例えばCGコードの基本原則では「自社の資本コスト」を意識した経営が奨励されているが、これを画一的に解釈すると企業がリスクを取って挑戦すべき事業案件を見逃すことにつながりかねない。また「CGコードを読む限り、資本コストを上回らない事業からは単純に撤退すればいいと考えているように思われる」が、各部門が有機的に結びついている場合、撤退が本当に企業価値の拡大につながるかを疑問視する。これらの資本コストに関する論点に加え、コスト削減で企業価値は拡大するのか、増配は株主の価値を高めるのか、企業の内部留保はどこにあるのか、環境問題や社会問題の解決に向けて企業はどこまで責任を負うのか等のCFとCGを巡る様々な問題について、幅広くかつ本質的な考察を展開し、形式や目先に捉われずに各企業が自らの経営理念の下でビジョンを掲げ徹底的に考え抜くことの重要性を指摘する。
著者は証券会社等を経て現在大学でCFやCGの研究と教育を行い実務と理論に精通する人物。数式を一切使わずに平易な文体でCFやCGの本質論に迫ることに成功しているのは見事である。著者の考えには異論もあろうが、企業経営や経済全体にとって重要なCFやCGについて更に議論が深まることを期待したい。すでに一通り勉強した人にもこれから学ぼうとする人にもぜひおすすめしたい好著である。