『マシンフッド宣言 (原題)MACHINEHOOD 上・下』S・B・ディヴィヤ著(ハヤカワ文庫)

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マシンフッド宣言 上

『マシンフッド宣言 上』

著者
S・B・ディヴィヤ [著]/金子 浩 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784150123888
発売日
2022/11/16
価格
1,320円(税込)

書籍情報:openBD

マシンフッド宣言 下

『マシンフッド宣言 下』

著者
S・B・ディヴィヤ [著]/金子 浩 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784150123895
発売日
2022/11/16
価格
1,320円(税込)

書籍情報:openBD

『マシンフッド宣言 (原題)MACHINEHOOD 上・下』S・B・ディヴィヤ著(ハヤカワ文庫)

[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)

AIがテロ? 謎を追う

 昨年末大きな話題となったAIによる絵画や文章、音楽の自動生成。創造性や独自性といった分野でもいつかAIが我々に取って代わるのではないか、という恐れは昔からあった。では、実際AIがわたしたちの社会にもっと深く関わってきたらどうなるのだろうか。それを描いたSFが本書『マシンフッド宣言』だ。

 舞台となるのは21世紀末。この時代、AIが殆(ほとん)どの仕事を担っている。人間は機械と同等になろうと、ピルと呼ばれる様々な薬で身体感覚を増強させている。集中錠、回復錠、加速錠、強化錠。かつて、機械移植のような不可逆的な肉体改造を試みた時代もあったが、人の体がそれに耐えきれず、今は薬による一時的なチートを繰り返すのみ。人間は、そのピルを作り出すごく一部の超富裕層と、簡単な請け負い仕事か、自身の生活をネットに公開してチップを稼ぐ労働者層に二分されている。

 主人公の一人ウェルガは元アメリカ海兵隊で特殊作戦に従事していたが、ある事件をきっかけに退役し、今は要人警護の民間会社に勤めていた。だがある日、ウェルガの警護対象が不可解なテロで死亡する。テロリストは〈マシンフッド〉と名乗り、全てのピルの製造を中止し、有機知能と無機知能の境界を撤廃せよ、さもなければ世界を破滅させる、と宣言した。

 これはついに誕生した意識を持った“強いAI”からの宣戦布告なのか。人間の地位はさらに低下し、AIのもとで生きるしかないのか。自身の体を襲う原因不明の痙攣(けいれん)や意識喪失と戦いながら、ウェルガは義妹の遺伝子工学者ニティヤと共に〈マシンフッド同盟〉の謎を追う。

 AIは同胞か、敵か。高度に発達し意識を持ったAIに人格権はあるのか。人はどう生きるのが幸せなのか。わたしたちの生きる世界の一歩先、そこで直面するだろう問題に様々な角度から光を当てる。これこそがSFの醍醐(だいご)味であり、役割だと思う。金子浩訳。

読売新聞
2023年1月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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