『不倫―実証分析が示す全貌』
書籍情報:openBD
学者が追究した不倫5W1Hの圧巻
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
不倫で騒ぐのは結婚家庭真理教の信者か、信者のふりをする商人、あるいは安い正義しか玩具のない暇人―と思ってたら、不倫を「学問の対象」にして「体系立った検討」を加えようと新書を書いた2人組が登場、彼らは学者でした。
『不倫―実証分析が示す全貌』は、よくある体験談や耳学問の書ではなく、まっとうな社会調査と先行研究にもとづいた“不倫学”の日本初の入門書にして専門書。婚外交渉を指す用語が不義密通・姦通・よろめき等々を経て不倫へと至る歴史(「金妻」や石田純一の貢献大)や、不倫を裁く法制・判例の転変が前菜なら、主菜は著者たちが既婚者を対象に2度行った調査、その結果から読み解く現在ただいまのニッポンの婚外恋愛の実情実態です。経験者は男で半数、女で15~25%という数字に始まり、誰が/誰と/どこで/何をきっかけに/何を求めて/どれほど長く続け/なぜ終えるのかという不倫の5W1Hまでがデータで詳細に見えてくるのは、壮観にして圧巻、かつ快感でさえある。
もうひとつ、この本がイイのは学術研究の有用性と面白さを伝えてくれるから。著者の五十嵐彰は移民を追う社会学者、迫田さやかは所得格差を究める経済学者で、不倫専門の研究者ではなし。それでも『不倫』が見事に成立するのは、アカデミックな手法を用いれば、下世話でリアルで切実なテーマの沼にも冷静に踏み入っていけることの証。だから読んどかなきゃいけないのよな、学者モノ新書は。