【書評】『ウクライナ・ショック』三好範英著

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ウクライナ・ショック 覚醒したヨーロッパの行方

『ウクライナ・ショック 覚醒したヨーロッパの行方』

著者
三好範英 [著]
出版社
草思社
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784794226228
発売日
2022/12/26
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【書評】『ウクライナ・ショック』三好範英著

[レビュアー] 岡部伸(産経新聞論説委員)

■日本も脱平和ボケを

主権国家を軍靴で踏みつけるロシアの蛮行は分断していた欧州を結束させ、対ロシア外交をこれまでの「対話」から、軍事力の裏付けが必要だとする「抑止」の考え方へと覚醒させた。この地殻変動を元新聞特派員が描き出した。

国力が10倍のロシアに抵抗するウクライナの予想外の善戦に誰もが驚いた。著者はその源泉を、ロシア革命に乗じ短期間とはいえ独立国家を樹立したウクライナの民族主義に求め、今回の戦争を「帝国勢力圏のくびきから脱しようとするウクライナ民族主義と、事実上の帝国を維持しようとするプーチンのロシアとの衝突」と解釈する。ソ連共産体制を全体主義として清算を急ぐウクライナと、ナチスの全体主義から欧州を解放したと主張するロシアとの歴史戦でもあるとの論評は慧眼(けいがん)だ。

北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大が侵略を招いたとする見方があるが、著者はプーチン大統領が2000年代前半まで東方拡大を容認していたことなどを挙げて真っ向から反論する。「主権国家がどの同盟を選ぶかはその国の外交の根幹をなす選択であり、外部の干渉は排除すべき」だと喝破する著者には、約30年前から度々現地を訪ねた記者としての矜持(きょうじ)がある。
この戦争で「平和ボケ」からの覚醒が最も顕著に現れたのがドイツだ。「抑止」理念復活と軍備増強など歴史的転換は、国民が「個人の生命財産、自由や民主主義を守りたいならば、国を守らなければならない」と国家との一体性を自覚したからだという。

アフガニスタンの平和維持活動などで軍事貢献を行ったドイツの感覚は、日本より常識的で国際標準に近い。自由貿易や多国間協調を基軸とする国際秩序の恩恵を最も享受する日本こそ、ドイツに学び平和ボケから覚醒すべきだと著者は唱える。台湾有事でも、欧州は対中警戒を強めるものの、軍事的支援を行うかは未知数だ。「日本は防衛努力を重ね、インド太平洋の安定に責任を負う覚悟を世界に示すことが最も肝心だ」とする著者の警鐘には重みがある。(草思社・2200円)

評・岡部伸(論説委員)

産経新聞
2023年1月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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