世界ナンプレ選手権で4位になったことも パズル制作の第一人者・西尾徹也が語った「世界パズル選手権」の舞台裏

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パズルマスター西尾徹也のザ・パズル

『パズルマスター西尾徹也のザ・パズル』

著者
西尾 徹也 [著]
出版社
株式会社 世界文化社
ジャンル
芸術・生活/諸芸・娯楽
ISBN
9784418232017
発売日
2023/02/01
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

パズルマスター西尾徹也に聞く日本パズルブームの舞台裏 第3回

[文] 世界文化社

■『パズルマスター西尾徹也のザ・パズル』を刊行した西尾徹也さんに聞く


パズル作家の西尾徹也さん

 2023年2月1日、パズル作家歴40年の集大成として『パズルマスター西尾徹也のザ・パズル』(世界文化社)を刊行した西尾徹也さん。

 日本にパズル文化を紹介し、現在まで続くパズルブームの礎を作った草分けである西尾さんは、これまでにどんなパズルを作り出し、どんなパズルを世に広めてきたのか?

 これまでのパズル作家としての歩みとパズルブーム舞台裏について、西尾さん本人に聞いた。

 本記事では、パズルの解き手としても有名な西尾さんが関わった日本と世界のパズルをつなぐ「世界パズル選手権」にスポットをあてる。

〈Sudokuが世界を席巻した日をナンプレ製作者の西尾徹也が語る 「思わぬブームに戸惑いながらも笑い合った」〉から続く

(全3回の3回目)

■パズルの祭典

――2023年2月に刊行されました『パズルマスター西尾徹也のザ・パズル』の中で登場する「世界パズル選手権」についてお伺いしてもよいでしょうか。世界パズル選手権というのは、どんな大会なのでしょうか。

西尾:第1回世界パズル選手権がニューヨークで開催されたのは1992年のことです。世界パズル選手権は日本語名で、実際にはWORLD PUZZLE CHAMPIONSHIP、略してWPCと呼ばれています。
 もともと東欧諸国のパズル愛好者たちが開いていたパズルの大会がありました。それをベースに世界的な大会を開こうと、アメリカのパズル作家兼パズル誌編集者のウィル・ショーツ氏が、世界各国のパズル誌を発行している出版社などに声をかけ実現したのが大会の始まりです。
 このWPCに私は最初の2年は選手兼コーチ、その後はキャプテン、選手団団長のようなものですね、で参加しました。トルコで開催された第7回にはなぜか問題制作責任者として参加しました。

――問題制作責任者ですか。それはすごいですね。

西尾:大会の開催国であるトルコでは、世界大会用の問題が用意できないからテツヤが作ってくれと頼みこまれたんです。さまざまな立場ではありましたが、第23回ロンドン大会まで皆勤を続けてきました。
 私にとってこのWPCでは何より各国のパズル作家やパズルファンとの交歓が楽しかった。とくに互いのことをよく知らない初期にはホテルのバーなどでその日に出題されたパズルの感想を述べあいましてね。自国のパズル事情を語り、互いのパズル作品を交換したりして愉快な夜を過ごしたものです。

■訪れる時代の変化

――そうでしたか。そんな世界パズル選手権もあるときから大きな変化があったと聞いています。

西尾:はい。WPCに大きな変化をもたらしたのがインターネットの普及でした。フィンランドで開かれた第11回大会までは大会でどんな問題が出るかは現地に到着して初めて配布された冊子で知ることになっていたのですが、大会2日間の間に出題される約100問ものパズルの内容が記された英文を読むのはなかなかの苦労。パズルはルールをきちんと理解していないと解けない問題ばかりですから、英語が不得手なメンバーも多かった日本選手にとっては大きなハンデになっていたのです。
 それが第12回のオランダでの大会では事前に主催者たちからインターネットを通じてインストラクションが送られてきた。オランダのスタッフは「英文を読むのに苦労が多い日本のために考えたんだよ」なんて冗談交じりに恩着せがましいことを言っていましたけれど、出題されるパズルに対する質疑応答もネットを通じて先に行われるようになり、確かに現地での余計な時間が軽減されることになったんです。

――インストラクションというのは、大会で出題される問題のルールと例題が記載されたものですよね。確かにインストラクションのおかげで事前対策がスムースになりました。他にも大きな変化はありましたか。

西尾:なんといっても、2004年から起きた「Sudokuブーム」(※1)です。このブームはWPCにも影響を与えました。WPCとは別に「Sudoku」だけの大会、WORLD SUDOKU CHAMPIONSHIP(※2)を開催しようという声が上がり、2006年にイタリアのルッカで第1回大会が開催されました。この大会、略してWSCは、現在WPCと一緒に日程をずらして開催されています。
 ちなみにこの第1回大会に私は視察ついでに選手として参加しまして。各国のおじさんパズル仲間の声援を受け望外の4位の成績を収めました。


第1世界SUDOKU選手権(イタリア・ルッカ)の様子

――すごいですね。この世界パズル選手権にはどうやったら参加できるのか教えていただいてもよいでしょうか。

西尾:以前は世界文化社で刊行するパズル誌で予選問題を掲載、会場で決勝大会を開催していましたが、現在は日本パズル連盟が主催する選抜大会の優秀者が日本代表として世界大会に参加しています。日本パズル連盟は、私が代表理事を務めています。大会の概要は日本パズル連盟の公式サイトに情報が出るはずですので、ご興味のある方はそちらをご覧になってください。


問題を解き終わって喜ぶ西尾徹也さん

――最後に、今作を楽しみにされている読者の方にメッセージをお願いします。

西尾:これまでに制作した万にも及ぶパズルから「エイヤッ」とセレクトした305問です。手ごわいものも、そうでないものありますが…ぜひ楽しんでいただければと思います。

編集部注
※1 1~9の数字を使って解くパズル「数独(Sudoku)」「ナンプレ(ナンバープレース)」の世界的流行のこと。
※2 略称はWSC。日本での名称は、世界ナンプレ選手権。世界SUDOKU選手権とも表記する。

 ***

(第1回を読む)
〈ゲーム「ピクロス」の誕生に繋がるパズルの生みの親・西尾徹也が語った「お絵かきロジック」発明秘話〉

(第2回を読む)
〈Sudokuが世界を席巻した日をナンプレ製作者の西尾徹也が語る 「思わぬブームに戸惑いながらも笑い合った」〉

 ***

西尾徹也(パズル作家)
日本を代表するパズル作家。日本パズル連盟代表理事。日本にパズル文化を紹介し、現在まで続くパズルブームの礎を作った草分け。1980年代前半にパズルの制作集団「菫工房」を設立し、世界文化社の『パズラー』創刊時から同誌で多くの作品を発表。『お絵かきロジック』の考案者であり、『ナンプレ(ナンバープレース)』育ての親。雑誌『パズラー』では投稿コーナーである「激作塾」の担当も務め、ここから多くのパズルやパズル作家が生まれている。世界パズル選手権へはアメリカで開催された第1回目から参加し解き手としても活躍。著書・編著書は170冊以上。2023年はパズル業40周年の節目にあたる。

聞き手:編集部

世界文化社
2023年2月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

世界文化社

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