日米同盟の本質を衝く91歳、覚悟の一冊

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西山太吉最後の告白

『西山太吉最後の告白』

著者
西山, 太吉, 1931-2023佐高, 信, 1945-
出版社
集英社
ISBN
9784087212457
価格
1,045円(税込)

書籍情報:openBD

日米同盟の本質を衝く91歳、覚悟の一冊

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

 1971年、毎日新聞記者だった西山太吉は、沖縄返還に際してアメリカが支払うべき400万ドルの補償金を、日本が肩代わりする密約をスクープした。だが、取材方法が国家公務員法違反に問われ有罪判決を受ける。密約問題よりも西山と外務省女性事務官との男女関係に世間の目が向けられたのだ。追及はうやむやとなり、結果的に報道の自由が封じられていった。

 西山太吉、佐高信『西山太吉 最後の告白』は、91歳の西山にとって覚悟の一冊だ。沖縄密約の構図を多面的に分析している。岸信介の時代、すでに別の密約があった。安保改定における朝鮮議事録だ。半島で緊急事態が起きれば、事前協議なしで在日米軍基地から出撃可能との内容だった。

 また弟の佐藤栄作は早くから沖縄返還を、ポスト池田勇人を狙う自分のメインイシューにする。政権獲得後は政治的野心から72年返還のタイムスケジュールを厳守。その無理が秘密を生み、密約となる。基地の自由使用という政治密約と、費用の過大負担という財政密約が、返還合意とほぼセットで決まっていたのだ。

 密約のスクープは機密漏洩事件として貶められたわけだが、情報は女性事務官が「私にくれた」ものであり、強要も要請もしていないと西山。ただし、彼女を情報ソースとして守れなかったことを、ミスであり失敗だったと自己批判する。

 半世紀が過ぎても解決しないままの沖縄問題。自民党政治と日米同盟の本質を衝く、貴重な証言集だ。

新潮社 週刊新潮
2023年2月9日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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