『NUDGE 実践 行動経済学 完全版 (原題)NUDGE: THE FINAL EDITION』リチャード・セイラー/キャス・サンスティーン著(日経BP)

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NUDGE 実践 行動経済学 完全版

『NUDGE 実践 行動経済学 完全版』

著者
リチャード・セイラー [著]/キャス・サンスティーン [著]/遠藤 真美 [訳]
出版社
日経BP
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784296000982
発売日
2022/11/18
価格
2,530円(税込)

書籍情報:openBD

『NUDGE 実践 行動経済学 完全版 (原題)NUDGE: THE FINAL EDITION』リチャード・セイラー/キャス・サンスティーン著(日経BP)

[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)

賢い選択へ 二つの新視点

 命令や強制ではなく、ちょっとした仕掛けで人々の行動を促す「ナッジ」は公共政策や企業のマーケティング戦略で今や広く用いられている。本書はナッジ理論の提唱者であり、ノーベル経済学賞受賞者のリチャード・セイラー教授らによる2008年刊行の代表作の全面改訂版である。冒頭の4章は前作とほぼ同じだが、その先は新しいテーマやトピックスが登場しており、著者は本書を「完全版」と銘打っている。

 新しく追加した章では二つの重要なトピックが取り上げられている。一つはデジタル技術を活用して情報開示を抜本的に改革する「スマート・ディスクロージャー」。とても読み通せない「利用規約」や細かい文字で書かれた食品の原材料表示などをコンピューターで容易に処理できる形式で開示し、それらの情報を比較し人々の意思決定を支援する仕組みを作ることの重要性を説く。例えば食品に含まれるアレルギー物質について、それを含む食品をオンライン上で簡単に検索出来る仕組みを作ることを挙げている。

 もう一つは賢い選択を難しくする摩擦や障害を意味する「スラッジ」である。自動更新への巧みな誘導、面倒な解約手続きなどの事例の他、煩雑な行政手続きも「スラッジ」の例として示される。最近ではコロナ禍当初における紙での複雑な支援申請などが記憶に新しいが、そのような多くの時間と労力を要する「スラッジ」を減らしていく一つの方法としても「スマート・ディスクロージャー」を活用していくことを提唱する。さらに環境や気候変動対策におけるナッジの活用、臓器提供の方法と問題点など興味深い様々な事例を取りあげている。

 ナッジには「人びとの自由と能動的選択を阻んでいる」などの批判もあるが、最後の章ではそのような批判に丁寧に反論を試みており、選択の自由を尊重するという著者の主張の根幹がよく理解できる。ナッジを中心に行動経済学を理解するための最適な解説書として政策担当者やビジネス関係者のみならず多くの人々にお薦めしたい。遠藤真美訳。

読売新聞
2023年2月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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