『子どもの言いごと』
書籍情報:openBD
『子どもの言いごと』斎藤たま著(論創社)
[レビュアー] 尾崎世界観(ミュージシャン・作家)
伝承唄 自由でやわらか
本書には著者が全国各地を訪ね歩き、そこに暮らす人々から聞いた伝承唄(うた)の数々が収められている。読んでいてまず思うのが、どの唄もとても売れそうにないということ。そもそも売り出してすらいない。いつかヒット曲を作りたい自分には、そのことが新鮮だった。
「唄」に使われる言葉はどれもやわらかく、音にぴったり貼り付いている。跳ねたり、伸びたり、止まったり。メロディーも知らないのに、読みながらいつの間にか頭の中で歌っていることに気づく。まだ意味になる前の「気分」をリズムで伝えたかと思えば、音なんて存在していないかのように言葉だけを強く放つ。同じ唄でもその土地土地で異なり、中にはドラクエのふっかつのじゅもん並に難解なものもある。けれど、「歌」のように必ずしも大勢に伝わる必要はないし、それでこそ「唄」に違いない。
プロとしてリスナーに届けようと努力すればするほど、「歌」はサービスになる。たとえばギターを弾きながら作曲すれば、コードの響きに誘われ、どんなに真心を込めてメロディーを手繰っても、パターン化されたコード進行に音が絡め取られてしまう。そうして出来上がったメロディーに乗せる歌詞も、筋肉が勝手に反応するように、感動や共感を意識したものになりがちだ。一方で、「唄」はそんなサービスから逃れて、とことん自由。
でもだからこそ、自分はプロとして行うリスナーへのサービスに誇りを持っているし、それが好きだ。
サブスクやTikTokの普及により、ここ数年やたらと〈一億回再生突破〉という言葉を目や耳にするようになった。これのせいで、「再生」という言葉をどこか薄っぺらく感じてしまう。本書のページをめくりながら一つ一つ唄を読んでいると、止まっていた何かがまた動き出すように、「再生」という言葉の重みがじんわり蘇(よみがえ)ってくる。