「商品力」で差はつかない。個人の「営業力」をグッとあげる2つの信念とは?

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「商品力」で差はつかない。個人の「営業力」をグッとあげる2つの信念とは?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

「営業」とは再現性のある科学』(木下 悠 著、日本実業出版社)の著者は、「これからは、営業力で差がつく時代になります」と主張しています。理由は、「商品力」では差がつきにくくなってきたから。

さまざまな分野での企業努力によって、業界を問わず「商品力」がどんどん磨かれていった結果、どの商品でも一定の満足感が得られるようになっています。

つまり「商品力」では差がつきにくい市場環境になったからこそ、企業が競争優位性を確立する鍵として「営業力」が重要な意味を持つようになっているというのです。

そもそも商品数が増え、カテゴリも細分化され、購入チャネルも多岐にわたっているだけに、誰もが自分にとって“本当に”必要なものを選べているとはいえない部分があるはず。また、人は意外と自分が本当にほしいもの、必要なものをわかっていないものでもあります。

事実、「会社や商品による差がわからず、どれがいいのかわからない」「情報があふれていて、何をどう判断して良いかわからない」というお客様が増えています。

そのようなときに、お客様の現状と向き合い、要望を丁寧に整理し、気づきを与えることで、「あなたの会社の商品・サービスが自分にピッタリ!」と思っていただく。その役割を担うのが“営業”という職種です。(「プロローグ」より)

そんな時代で勝ち残っていくためには、世の中の変化やお客さまの変化にうまく対応し、どんなときでも成果を出し続けられる人と組織が求められると著者は主張しています。いいかえれば、営業個人と営業組織における成果の再現性が求められるということでもあるでしょう。

そこで本書では、いつでも成果を出し続けられる個人と組織に必要な「考え方」と、それを活かすために必要な「営業力の磨き方」を解説しているわけです。

きょうは第4章「個人の営業力は『顧客接点の場数×成功・失敗体験』で磨かれる」のなかから、いくつかのトピックスを抜き出してみたいと思います。

営業のスタンスが「自社の売上(=提供価値)の上限」を決める

「お客さまの役に立ちたい」という想いが強くなればなるほど、自分の力だけでは解決できない課題に直面するもの。なぜなら、お客さまへの理解が深まれば深まるほど、お客さまのなかで顕在化している課題のみならず、潜在的な課題にまで目が向くようになるから。

しかし、その課題を解決したいと思った営業が、自分のスキルの足りなさ(=自分だけでは解決できない)に気づかされることもあるはず。そのとき、自分だけでできる範囲で完結させようとするのか、まわりの人(上司や先輩)を巻き込むかによって、お客さまへの提供価値(=売上)の上限は大きく変わることになるでしょう。

事実、営業の仕事のなかで、自分ひとりで完結できるものはほとんどありません。あったとしても、自分ひとりだけでできる仕事はたかが知れているともいえます。だからこそ、自分の力だけで解決しようと思わなくていいわけです。

周りに自分に足りないスキルを有している人がいれば、周りの人のスキルを上手に活用する。自分にはない視点があれば、それを活用する。そうやって、お客様への提供価値を最大化することを目指すのです。

同時に、自分に何が足りないのか、足りない要素を埋めるためにはどうすればいいのかという「内省」を続ける。良い方法があれば、取り入れる。それらによって、1つひとつの経験が自身の学びに変わり、「スキル」が磨かれていきます。(193ページより)

もちろん、自分の力以上のことにチャレンジすれば壁にぶつかることもあるでしょう。しかし、その壁を越えるたびに成長していくものでもあります。その理由は、アカデミックな研究でも明らかになっているのだとか。

北海道大学の松尾睦氏の著作『経験からの学習』(同文館出版)では、不動産営業・自動車営業などへの調査から「経験からの学習」に必要な要素が明らかにされているというのです。そこで考察されているのは、お客様の役に立ちたいという想い(顧客志向の信念)が強いほど、経験からの学習が促進されるということ。

お客様のことを考え、「もっと役に立ちたい」と思えば思うほど、自分のいまの能力では解決できない壁にぶつかり、その壁を越えるための努力をすることになるわけです。

その結果、さらに難易度の高い仕事にもチャレンジしていけるようになり、個人のスキルがさらに磨かれていくのです。

また、高い成果を上げている営業ほど、「目的達成志向の信念(目標を達成したいという想い)と「顧客志向の信念」のバランスが取れているという研究結果も、同書では紹介されているそうです。

つまり、高い成果を出している営業は、両方の想い(目標達成の信念と顧客志向の信念)を強く持っているからこそ、お客様が気づいていないような問題の発見や、新たな視点での課題設定ができるのです。(194ページより)

課題を解決に導くことができれば、お客様から熱い信頼を得られるようになるはず。その結果、通常の受注に加えて、紹介やリピートが増え、成果が上がるという好循環を実現できるわけです。(192ページより)

お客様の考えていることは『対話』のなかでこそ理解できる

営業がやるべきは、お客様の頭と心のなかを深く理解すること。そのためには、お客様が“どんな情報”を“どのように解釈しているのか”を理解することが必要。

とはいえ聞きたいことを一方的に聞くだけのヒアリングでは、情報は手に入ったとしてもお客様の心の奥にある認識までは理解できません。また、こちらが持っている情報を提供するだけでは、お客様の考えていることを引き出すことは不可能です。

こちらが持っている情報に仮説(=自分なりの解釈)を加えて話をすることで、お客様のその情報に対しての意見(=お客様なりの解釈)を聞くことができるのです。(203ページより)

つまり、お客様とのコミュニケーションにおいて意識すべきは、ヒアリングや情報提供などの一方的なやりとりではなく、「対話」という双方向のやりとりだということ。

社会学における“社会構成主義”という考え方では、「社会に存在するありとあらゆるものは人間が対話を通して頭の中でつくり上げたものである」と言われています。

つまり、あなたの会社の商品・サービスの価値も、あなたとお客様の「対話」を通してお客様の頭の中につくり上げられるものだということなのです。(196ページより)

これも、営業のあり方を改めて認識するにあたって意識しておきたいポイントだといえそうです。(202ページより)

著者は新卒でリクルートに入社し、住宅領域の営業として、住宅・不動産会社の集客支援・販売支援業務に従事してきた人物。そののちマーケティング・リサーチ会社のマクロミルに転職して大手食品・飲料メーカーのマーケティング活動を支援し、現在はhomieという不動産Techのスタートアップの執行役員を務められています。

つまりここには、3社で培ってきたノウハウが凝縮されているわけです。より成果が出せる営業を目指すために、そんな本書を参考にしてみてはいかがでしょうか?

Source: 日本実業出版社

メディアジーン lifehacker
2023年2月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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