『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』
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ニットデザイナーが編む宝物のような思い出
[レビュアー] 夢眠ねむ(書店店主/元でんぱ組.incメンバー)
「はじめに」を読み、その後15ページ読み終えたところで私の書店で販売するために発注をかけたくらい、最初から面白く衝撃を受けた。語り口が自然で、淡々と話しているのに各編の最後はじわっと嬉しくなるような温かいエッセイ集である。
元々、2017年~2022年の間に三國さんがご友人とのメールのやり取りの中で書いたエッセイをまとめた、というのも不思議な成り立ちだ。タイトルにも「編む」とあるように、著者はハンドニットのデザイナーである。普段は文章を書くお仕事ではない。しかし仕事に没頭しすぎて“編む動物”のようになってしまうことから逃れるために、言葉にして解放する手段としてエッセイを書き始めたそうだ。
こんなに惹きつけられるのは、健やかに生きるのに必要な作業として生まれた文章ということ、そして彼女にとって“書くことは本業である「編む」ことに似ている”という内容の文章で腑に落ちた。最初の断りで「まず5年にわたって書いたものでありながら、本の中では書かれた順に並べていないため、作者のわたしがいる『今』が定まらず、ゆらゆらしていること」について申し訳ないと書かれているのだが、それにより読んでいるうちに「あ、さっきのこの話ってここに繋がってるんだ」と時系列が読み手の中で繋がっていく。実際の思い出話ってこうだよな、これが醍醐味だよなと本の中で感じられる経験は初めてだった。
その中に三國さんの宝物のお話がいくつかあるのだけれど、どんなに素敵なものか見てみたいなあと頑張って想像していたら、途中に差し込まれるカラーページで紹介してくださっていて、それがとても嬉しい。見せて欲しいと言い出せずにいたら「これなんですけどね」と自然に見せてくれるようなタイミングで。
私も宝物のような思い出を、こんなふうに思い出せる人生でありたいなと羨ましくなった。