『その悩み、大胸筋で受けとめる』
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鍛え続けた共感筋 聞く力の本懐ここにあり
[レビュアー] 今井舞(コラムニスト)
新日本プロレスで「100年に一人の逸材」と称される人気レスラーによる、ウェブサイトの悩み相談連載の書籍化。プロレスに疎い門外漢は、表紙のこの写真とタイトルから、ムキムキによる頭カラッポな、いわゆる「筋肉バカ」的回答を想像してしまうが。さにあらず。
連載当初は、相談者に直球で正解を提示しようとしていた著者。だが回を重ねるうち、相談というものは、結論を言えば終わりではないということに気付く。やがて、寄せられた相談の文章を何度も何度も読み返すうち、ちょっとした言い回しや、文章のトーンの違いなどから、相談者が到達したいと願う「無意識に設定しているゴール」を見つけられるように。「相談に乗る」とは、そこに一番スムーズに到着できるよう、背中を押すことなのだと悟ったという。
寄せられる相談内容は、仕事、配偶者、恋愛、人生、親、子供、お金、夢、自身の性格etc……、深さも広さも多岐にわたる。もし自分が相談されたらと考えると、正直どうしようもない、困った話が多い。しかし著者は、どの相談者にも、相談する前より必ず前向きになれるであろう「答え」を提示する。嫌な上司に悩む人には「職場の空気が一変する可能性は、あなた自身が握っている」、容姿に悩む無職には「カッコよさは総合点で決まる。まずは仕事を始めること」。末期がんで残された日を思い、心がすさむという相談には、「人の記憶に残ることが生きた時間の証明になる」と伝え、今は夕方だが、今日の残りの時間を、相談者がどんな人なのか考えながら過ごすつもりだと末筆に添える。
元々新聞記者志望で、立命館大学法学部卒。文章を書くのが大好きで、海外遠征記などで2、3万字書くこともザラ。この本の原稿もじっくり推敲したという。何もかも知らなんだ。
連載を始める前は、世の男性と同じく、奥さんの相談を受けるのが苦手だったというのが信じられないほどの筋力アップ。お悩み相談本というよりは、「聞く力」を鍛える教科書といえるかも。聞きベタの自覚がある向きは、ぜひ。