<書評>『100均資本主義 脱成長社会「幸せな暮らし」のつかみ方』郭洋春 著

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100均資本主義

『100均資本主義』

著者
郭洋春 [著]
出版社
プレジデント社
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784833424653
発売日
2022/12/01
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『100均資本主義 脱成長社会「幸せな暮らし」のつかみ方』郭洋春 著

[レビュアー] 荻原博子(経済ジャーナリスト)

◆身の丈の満足 創意工夫で

 私たちの日常生活に、いまや欠かせなくなっている100均ストア。驚きの品揃(しなぞろ)えに加えて、様々(さまざま)なアイデア商品が次々と出てくるので、何度行っても飽きず、見て回るだけでも楽しく、ユーザーを引きつけ続けています。どれでも百円という気軽さから、財布の口も開きやすく、足を踏み入れたら最後、あれもこれもと買いすぎてしまうという人も多いようです。

 この100均ストアこそが、成長力を失い、コロナがとどめとなってマイナス成長という閉塞(へいそく)状況に陥ってしまった従来の新自由主義に対抗する「新しい資本主義」の形態だと著者は言います。店に並ぶ商品は、安くて良いものを売りたいという業者の創意工夫の結晶であり、給料が上がらない中で、それでも生活を豊かにしたいという人たちのニーズに応えたものです。

 将来への不安が高まり、物価高に脅かされ、増税や社会保険料アップまで押し寄せてきそうな今の日本ですが、それが暴動にまで発展しないのは、すでに多くの人たちが生活様式を変えているからだと言います。給料が伸びないなら伸びない中でなんとかやっていこうという創意工夫が旺盛になり、他人に頼るのではなく自分の頭で考えて満足できる生活を目指そうとする自己防衛本能が磨かれている。

 人より良いものが欲しい、良い生活をしたいという競争社会であれば当然生まれてくるはずの欲望が、今の日本では薄れている。人は人、自分は自分という考え方で多様性を受け入れ、自分の満足を求めるところから生まれたのが「100均資本主義」だと言います。

 身の丈を超えた欲望に突き動かされるのではなく、100均ストアが具現化しているような何でもありで知恵と工夫を武器にする生活をしていく社会。そこにこそ、本当の意味での「新しい資本主義」があるという気がしました。

 「100均」という、生活に馴染(なじ)み深い言葉を入り口に読み進むうちに、いつのまにか今の日本の模索すべき方向性にたどり着く。優しい言葉で、深い鋭い考察力を感じさせる一冊です。

(プレジデント社・1870円)

1959年生まれ。立教大教授、前総長・開発経済学。『国家戦略特区の正体』など。

◆もう1冊

髙坂勝著『減速して自由に生きる ダウンシフターズ』(ちくま文庫)

中日新聞 東京新聞
2023年2月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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