高学歴の親が子育てに失敗する傾向に……小児科医が考える悲劇につながるリスクとは?

インタビュー

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高学歴親という病

『高学歴親という病』

著者
成田 奈緒子 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784065302125
発売日
2023/01/20
価格
990円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

高学歴な親はなぜ子育てに失敗するのか? その実態、原因と解決策教えます!【著者インタビュー】

[文] 講談社

小児科医であり、脳科学者でもある成田奈緒子さんによる『高学歴親という病』が刊行された。子育て支援事業「子育て科学アクシス」の代表を務める成田さんは、“高学歴”の家庭は子育てがうまくいかない傾向にあるという。なぜなのか? 担当編集の山中武史が、高学歴の親の子育てをテーマにした書籍を執筆した理由を伺いながら、成田さんの自説に迫った。

子育てにおける3大リスクは“高学歴親”と深い関わりが

山中武史(以下:山中) 前作、山中伸弥教授との対談本は、おかげさまでベストセラーになりました。そのお祝いの席で成田先生がポツリとおっしゃったお話が、今回の企画につながったんですよね。

成田奈緒子(以下:成田) あの対談本が出たあと、私のところ(※1)へ相談に来られる方で非常に高学歴の方が増えたんです。みなさん、自分は順調にエリートコースを歩んできたのに、子どもが思うようにうまく育っていないという悩みを抱えていらっしゃいました。

山中 僕も、同世代の高学歴の親たちを見ていると、ものすごい早期教育をしていたり、どの学校を選ぶかという情報共有がすごかったり、それって本当に子どもにとって良いことなのかな? という疑問があったんです。
高学歴の親の子育て、1冊のテーマになると確信しました。

成田 子育ての3大リスクは、干渉・矛盾・溺愛。それを引き起こす大きな要因として、親御さんの“高学歴”があります。彼らは、 “高学歴”こそが人生で成功する重要なファクターであるという教育を受けてきました。
そこで本音としては、子どもにも同じことを強いたいのですが、今は時代が変わってきているので、建て前上は「どこの学校に行ってもいいのよ」と言ったりする矛盾が起きます。
高学歴親は高収入の方が多いので、子どもにかけられるお金も桁違いに多く、情報も過多。お稽古ごとや塾代にお金をかけないと、この子は失敗するんじゃないかという強迫観念が強いんです。

山中 でも、学歴がなくても、大金持ちで子どもにすごくお金をかける親もいますよね。

成田 単にお金の問題だけではないんです。溺愛するだけなら、それほど問題ではありません。それが過干渉になるとおかしくなってくる。たたき上げで財を成した方は、お金をかけて溺愛はしても、過干渉にはならない方が多いんですよね。

親の「完璧主義」「虚栄心」「孤独」が生む子育ての悲劇


『高学歴親という病』著者、成田奈緒子氏

山中 子育てで一番大事なのは、子どもを信頼することだと力説されていますよね。高学歴親は、なぜ子どもを信頼できない傾向があるんでしょう。

成田 子どもが成長するには自分でトライ&エラーをくり返すことが大切ですが、高学歴親は「完璧を貫いてきたから今の自分がある」という自負から、子どもの些細な間違いも、先回りして直したりするんです。

山中 そういうことが悪しき「完璧主義」につながるんですね。「虚栄心」も良くないと。

成田 どうしても、まわりの人からどう見られるかを気にしてしまうんです。少しでも見栄えのいい外面をつくりたい、早く良い子に育てたいと。でも、そこはぐっと我慢をして、失敗したり何かとんでもないことをやっていたりする子どもを見守って、何回かのちにできるようになるまで信じて待つことが大事なんです。

山中 「孤独」も問題だと。

成田 特に医師や教師といった専門家と言われるような方たちは、プライドが邪魔をして、ママ友をつくってキャッキャできないところがあります。その結果、自分の狭い考えと、たくさんあるネットの情報に頼りすぎて、「こうしなければいけない」を押し進めてしまう。それは強迫の症状で、その不安が高まるほど子どもが信頼できなくなるんです。

山中 僕も、妻と喧嘩になったことが(笑)。妻に「心配ばかりしないで、ちょっとは信頼しようよ」と言ったら、「それはあなたが無責任なだけよ」と。

成田 難しい問題です(笑)。子どものまわりには危険もいっぱいあるのですが、親はそのリスクを引き受ける覚悟がないといけない。私も娘が小学5年生のときに、本人がどうしても行きたいと大騒ぎするので、ブラジルに1ヵ月送り出したことがあります。十数ヵ国の子どもたちが集まるキャンプでした。その1ヵ月間は親とも一切連絡をとらない。ブラジルなんて私も行ったことがないし、何かあっても、すぐに飛んでいくこともできない地球の真裏。ものすごく心配でしたが、これで無事に帰ってこられたら、娘は絶対に特別な何かが得られるし、それは彼女にとってすごく良い経験だろうと思いました。

山中 その判断は、なかなか勇気がいりますよね。

成田 怖かったですよ。でも、お腹にぐっと力を入れて娘を送り出しました。

山中 まさに、かわいい子には旅をさせよということですね。

成田 そこが高学歴親のふんどしの締めどころなのかなと。せっかくお金や知識がある方たちなので、習いごとをいっぱいさせるとか、その送り迎えにエネルギーを使うよりも、そういう大きなチャレンジをすることにかけてほしいですよね。

幼少期にまず育てるのは「からだの脳」から


左)著者、成田奈緒子氏 右)担当編集者、山中

山中 脳を育てる順番が大事だというのも初耳でした。まずは「からだの脳」からなんですね。

成田 生きるために重要な「からだの脳」を育てるには、正しい睡眠が不可欠です。人間は昼行性の動物なので、早寝早起きが基本。まずは、原始人のように育てよ、です。昔の小学生は夜8時には寝ていましたが、今は9時台以降。たくさんのお稽古ごとで睡眠時間が削られるなんてもってのほかなんです。

山中 すべての土台となる「からだの脳」が育たないと、勉強やスポーツに関わる「おりこうさんの脳」や、相手の心を読んで社会性を身につける「こころの脳」も育たないわけですね。

成田 将来のリスクを減らすことにもつながります。この土台の脳があることで、受験に失敗したり、たとえ親が破産したり、大失恋するようなことがあっても、「しょうがないな」という発想が出てくる。それが、よく寝ている子の脳なんです。

山中 レジリエンス(※2)が身につくわけですね。

成田 ところで山中さん、ご自身のお子さんの進学は?

山中 上の子は大学に入りましたが、下の子は受験勉強はしない宣言をして公立中学へ。今はゲーマーになるとか言っていますが、別に大学なんて行かなくても、それもまた面白いなと思って放置しています(笑)。

成田 それでこそ、本作の担当者! さすがです(笑)。

※1=成田氏が代表を務める子育て支援事業「子育て科学アクシス」
※2=トラブルや困難な状況にうまく適応できる能力

撮影:渡辺 充俊/講談社写真部

*****

成田奈緒子(なりた・なおこ)

1963年、仙台市生まれ。神戸大学医学部卒業、医学博士。神戸大学医学部で山中伸弥氏と机を並べた同級生。米国セントルイスワシントン大学医学部、獨協医科大学、筑波大学基礎医学系を経て2005年より文教大学教育学部特別支援教育専修准教授、2009年より同教授。2014年より子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表。前作の山中教授との共著『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』がベストセラーとなり話題に。

Copyright (c) 2023 Kodansha LTD.

講談社
2023年2月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

講談社

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