奇抜な着想で社会の矛盾をあぶり出す最終話「接待麻雀士」は必読です！

　奇想に溢れたリーガル小説集だ。

　新川帆立『令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法』は、“レイワ”という読みの元号が使われる、六つの並行世界を舞台にした短編が収められている。それぞれの世界では現実にはない風変わりな法律が制定されており、その法によって振り回される人々を描く、というのが本書の基本線だ。例えば「動物裁判」では、動物に子供と同等の権利を付与する“動物福祉法”が定められており、作中ではチンパンジーの猥褻行為を猫が訴える裁判が描かれている。動物裁判の専門家として名を売ろうとする若手の男性弁護士が語り手を務める本作では、奇妙な法廷の模様をユーモラスに描きつつ、人権意識に対する皮肉な視線が込められている。

　奇抜な着想を盛り込んだだけではなく、それによって現実を生きる人々が抱く違和感や社会の矛盾をあぶり出す点が素晴らしい。禁酒法が施行、やがて廃止されるが、家庭での醸造が伝統文化として認められる日本を舞台にした「自家醸造の女」では、家と男女の役割に関する歪みを描いてみせる。最も痛烈なのは、“労働者保護法”によって過度な健康管理を行うフルフィルメント・センターで起こった不審死を描く「健康なまま死んでくれ」だろう。閉じられた空間で展開するスリラーの要素もある短編だが、急に読者が住む現実世界へと引き戻され、慄く瞬間がやって来るのだ。

　SFを基調としつつ、様々な趣向に挑んだ短編集になっていることも美点だ。収録作中の白眉は「接待麻雀士」である。賭け麻雀が合法化された社会で、接待麻雀を生業とする主人公が奇妙な対局を行うという話だ。相手の思惑を読み合う場面がスリリングな賭博小説であり、さらには捻りの利いた展開で驚かせる点でも読ませる。実に手数の多い作家であることを、新川帆立は本書で証明してみせた。

• 若林踏
• 集英社
• 新川帆立
• 令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法

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