あの聡明な父親がなぜネトウヨに?

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ネット右翼になった父

『ネット右翼になった父』

著者
鈴木 大介 [著]
出版社
講談社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784065308899
発売日
2023/01/19
価格
990円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

あの聡明な父親がなぜネトウヨに?

[レビュアー] 佐藤健太郎(サイエンスライター)

 コロナ禍でしばらく会えなかった友人や親族と久々に顔を合わせてみたら、おかしな陰謀論やスピリチュアルにハマってしまっていた――というような話を、あちこちで聞くようになった。かつて信頼していた人物が、ネットで仕入れた安っぽい言説を振りかざしてきて、唖然とさせられることを筆者も経験している。

『ネット右翼になった父』の著者・鈴木大介氏の父親も、そうした一人であった。もともと知的好奇心旺盛で行動力に富んでいた父親は、晩年には中韓への汚い差別用語を並べ立て、がんの病床にあっても粗悪な右傾コンテンツに浸るようになっていた。息子はそうした態度から目を背け、分かり合えぬまま父を見送る。

 もともと本書は、こうした現代の病巣ともいうべき家族の分断が、なぜ生じるのかをテーマに企画された本であったようだ。だが、親族や友人の証言を集めて父親が右傾化していった過程を追ううちに、単純な「変節」などではなかったことが明らかになっていく。そして著者の内心にも変化が訪れ、生前に拒絶した父を受け入れられるようになる。

 本書を読んだ感想は、人によって大きく割れるだろう。すでに世を去った父親の内心を追いかけることに何の意味があるのかと感じる方も多いに違いない。だが、親族でありながら互いを分かり合えないことを経験した人には、著者の述懐が重く響くだろう。様々な価値観、主義主張がひしめき、せめぎ合う現代にこそ、本書は読まれる価値がある。

新潮社 週刊新潮
2023年2月23日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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