『人口の経済学』野原慎司著(講談社選書メチエ)
[レビュアー] 牧野邦昭(経済学者・慶応大教授)
日本は人口減少が止まらないが中国の人口も減少に転じた。一方でアフリカなど人口増加の著しい地域もある。本書は過去の思想家たち(主にアダム・スミスなどの経済学者)の思索をたどることで現代の人口問題へのヒントを探っている。
労働力や消費などに影響する人口は、重商主義以来の経済学の歴史でも重視されてきた。しかし同時に、一七世紀のオランダの人口増加の要因が良心の自由や財産権の保障といった制度の結果であると分析されていたように、人口は制度や統治のあり方と関係して論じられてきた。特に人口と平等との関係は重要な問題として長年議論されており、ケインズも人口停滞による需要減少に対処するため所得分配の平等化など制度変更の重要性を説いた。
現在の経済学では近現代の人口増加のもとでの経済成長を前提として議論が構築されており、多くの国が直面している人口減少の検討は遅れている。価値観や政治制度など幅広い領域に関わる人口を扱う上で、多様な側面から人口を論じてきた過去の思想は大いに参考になる。本書はそのために役立つだろう。