『日本の保守とリベラル 思考の座標軸を立て直す』宇野重規著(中公選書)

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日本の保守とリベラル

『日本の保守とリベラル』

著者
宇野重規 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784121101327
発売日
2023/01/10
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

『日本の保守とリベラル 思考の座標軸を立て直す』宇野重規著(中公選書)

[レビュアー] 橋本五郎(読売新聞特別編集委員)

あるべき理念を求めて

 「保守」は伝統を尊重しつつ秩序ある漸進的な改革を目指す。「リベラル」は個人の自由や寛容の原則、多様性を尊重する。両者は次元を異にし、そもそも対立図式で捉えるのはおかしいのではないか。そう思いながらも、著者は日本を分析するにあたっては無意味ではあるまいと論を進める。なぜなら、今こそ思想的にも政治的にも真の「保守」、真の「リベラル」が求められていると思うからだ。そこにはある種の焦燥感さえ漂っている。

 近代日本にとって保守主義もリベラリズムも独特な困難に直面した。保守主義の成立に必要な歴史の継続性・連続性は明治維新と第2次大戦の敗北で断絶を経験した。リベラリズムも社会に根を下ろすことがなかった。しかし、それでも、学ぶべき遺産がないわけではない。

 保守主義の系譜は伊藤博文、陸奥宗光、原敬から吉田茂に連なっているだろう。リベラリズムも、たとえ「稜線(りょうせん)」と言われても、福沢諭吉や石橋湛山、清沢洌らを通して、その可能性を探ることができる。伊藤らは急進派と明確な一線を引きつつ自覚的に漸進的な改革を進めた。福沢は日本社会の病である「権力の偏重」を脱して「一身独立」と「一国独立」が両立すべきであると説いた。

 著者は丸山眞男、福田恆存、村上泰亮らの思想も子細に検討、真にふくよかで自由な社会のために何が必要かを考え、注文する。「保守」に対しては、自らの歴史と伝統に真に誇りを持つがゆえに必要な変革を行うとともに、自らが社会を担っているという自負と責任感を持つがゆえに寛容で懐の深さが求められる。

 自由とは「好き勝手」や「わがまま」とは違う。まして単なる個人の自由や利己主義ではない。「リベラリズム」とは社会における多様な存在を認め、それを守るための気概と道理を持っているのか、各個人の責任を強調するものでなければならない。その通りだと思う。

読売新聞
2023年2月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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