『現代戦略論 大国間競争時代の安全保障』高橋杉雄著(並木書房)

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現代戦略論

『現代戦略論』

著者
高橋杉雄 [著]
出版社
並木書房
ISBN
9784890634309
発売日
2022/12/28
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

『現代戦略論 大国間競争時代の安全保障』高橋杉雄著(並木書房)

[レビュアー] 小泉悠(安全保障研究者・東京大講師)

対中政策 考え方・具体案

 戦略という言葉は、社会に溢(あふ)れている。安全保障領域に留(とど)まらず、企業経営から選挙、スポーツに至るまで、何らかの勝負事に関して、戦略は常につきまとう。

 だが、戦略とは何なのだろうか。何らかのゴールとそれを達成するための道筋、という程度の定義は何となく思い浮かぶ。ところが、それが(これまたよく目にする)「ビジョン」とか「計画」とどう違うのかと問われると、ちょっと答えに詰まってしまいそうだ。

 この「戦略とは何か」という問題に、本書は真正面から答えてくれる。それは「目的・方法・手段の組み合わせ」なのだ――といえば当たり前のようだが、では目的はどのように設定されるべきなのか? 目的は願望とどう違うのか? 目的・方法・手段は明瞭に切り分けられるのか? 失敗する戦略と成功する戦略の差は何か?など、事を成し遂げるために必要とされる多くのヒントが本書には詰まっている。安全保障に関心のある読者だけでなく、経営者や管理職にとっても多くの示唆があるだろう。

 しかし、防衛研究所の研究者である著者のより大きな関心は、安全保障面の戦略に置かれている。急速な軍事的台頭を遂げる中国に対して日本が今後とも安全保障を確保していくために何が求められるのか、というのが著者の中心的な関心であり、そのために必要な考え方と材料が非常に具体性を持った形で展開されていく。

 言い換えるならば、曖昧模糊(もこ)とした「戦略なるもの」を、日本にとっての具体的な政策課題として提示してくれる点が本書のもう一つの、そして大きな特色と言えるだろう。特に本書の終盤で提示される統合海洋縦深防衛戦略は、いわゆる「敵基地攻撃」よりも海上における長距離攻撃能力こそ日本の対中抑止力の中核になると論じる。防衛三文書の改定で安全保障についての議論が盛り上がる中、そこに補助線を引く一冊であると見受けた。

読売新聞
2023年2月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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