『ベルクソン思想の現在』檜垣立哉/平井靖史/平賀裕貴/藤田尚志/米田翼著(書肆侃侃房)
[レビュアー] 郷原佳以(仏文学者・東京大教授)
心にとって時間とは何か、人は記憶に依(よ)って生きているが、保存された過去と想起する作用はいかに関係するのか、生命はいかに自発性を獲得して進化するのか、人を動かす力とは何か。時間や記憶、生命をめぐる数々の難問に、そのつど通念を否定し、諸科学と対話しながら取り組んだのが世紀転換期のフランスの哲学者ベルクソンである。
同時代に多大な影響を及ぼしたが、現代思想の隆盛期にはポストモダンの哲学者ドゥルーズの参照項として以外にはあまり注目されなかった。しかし、日本では1990年代から再び研究が蓄積され、ついに昨年、世界的水準にある5人の研究者が各々(おのおの)ベルクソン論を刊行した(1冊は文庫化)。この「ベルクソン・イヤー」を記念して福岡の書店で開かれた連続トークイベントを元に編まれたのが本書だ。
『時間と自由』『物質と記憶』『創造的進化』『道徳と宗教の二源泉』をめぐり5人が最先端の解釈に基づくスリリングな討議を展開する。著作全体に通じた専門家が1冊ずつ語り合うことで、ベルクソンの一筋縄ではいかない「反時代的」な精髄と魅力が浮かび上がる。