50年以上ネコを撮り続けた「世界ネコ歩き」の写真家・岩合光昭がもう一度会いたかったネコとは?
[文] Book Bang編集部
アイルランドの“牧羊猫”ボディシャスは風格がレベチ(撮影・岩合光昭)
ネコを魅力的に撮るカメラマンで、岩合光昭(いわごうみつあき)氏の右に出るものはいないだろう。
日本を代表する動物写真家であり、『ナショナルジオグラフィック』誌の表紙を2度も飾るなど、世界的にも評価されているカメラマンである。
岩合氏のライフワークは、ネコの撮影だ。
2012年に始まったNHK BSプレミアムのドキュメンタリー番組『岩合光昭の世界ネコ歩き』は2度も映画化され、その人気が伺える。
2019年には映画『ねことじいちゃん』、2021年には『劇場版岩合光昭の世界ネコ歩き あるがままに、水と大地のネコ家族』で監督も務めた。
近年は岩合氏のSNSも話題だ。コロナ禍で写真展が激減し、撮影にも出掛けにくく落ち込んでいた頃にTwitterでの発信に力を入れたところ、フォロワーが増え現在は33.6万人に上る。
国内外から約30匹のネコを大選抜
撮影で世界各地に赴き、50年以上ネコの撮影を続けてきた岩合氏にも、思い入れの強いネコがいるという。ファンにも人気のある そうしたネコを約30匹選び、写真集にしたのが『あのネコに会いたい 岩合光昭写真集』だ。ネコに向き合い続けてきた岩合氏が、「会いたい」と思うネコはどんなネコなのか?写真集の担当編集である斎藤実氏に話を伺った。
――写真集に登場した、岩合さんが「会いたい」と思ったのはどのようなネコなのでしょうか。
岩合さんが世界中でネコの撮影をしてきた中から選んだ、約30匹が登場しています。
ファンにとって一番馴染み深いのは、岩合さんが監督した映画『ねことじいちゃん』で主演した茨城県のベーコンや、この映画の撮影時に出会い岩合さんが家族として迎え入れた兄弟ネコの玉三郎と智太郎(通称・タマトモ)でしょうね。
でも、他の子たちもそれぞれ魅力的なんです。岩合さんは、ボス猫然とした大きな顔のオスが大好きで、常にそういう猫を探してるみたいです。この写真集でも鎌倉のキイロ、イタリアのチンクエテッレのドン、ジャマイカのティティのように、たくましくて強そうなんだけど、同時に愛嬌があってかわいいオスたちをフィーチャーしてます。
フェロモンがムンムン、ネコの兄弟なのにトムとジェリー
他には、アイルランドの牧場で暮らす“羊飼いネコ”のボディシャス。牧羊犬はよくいますが、牧羊猫はとても珍しく、駐日アイルランド大使館がSNSで紹介して話題になりました。リーダーの風格を漂わせた凛々しい表情を岩合さんが引き出しています。アップの写真があるんですけど、すっごく精悍でオスのフェロモンがムンムンしてるように感じました。同じ男ながら写真見てドキッとして、「これは絶対使いたい!」って思いました。
スイスに暮らすトム(撮影・岩合光昭)
また、スイスに暮らす“トム”と“ジェリー”という兄弟ネコも登場しています。
――アニメ『トムとジェリー』のように“ジェリー”はネズミじゃないんですね。
そうなんですよ(笑)。アルプスの息吹を感じさせる大自然の中、生き生きとした姿を見せるトムとジェリーがそれぞれ魅力的な写真になっています。岩合さんは、動物だけでなく動物がいる空間を撮るのが抜群に上手な方です。このスイスの写真も猫が感じてる風や草のにおいまで感じられそうなのがすてきだと思います。
そして、トムとジェリーは日頃スイス・アルプスを走り回ってるせいか、体つきもたくましいです。後ろ脚の太ももの筋肉とか美味しそうなほど発達してます。
やっぱり岩合さんは野生動物の写真家なので、動物としての猫の美しさには人一倍敏感です。例えば、キプロスの古代神殿に住んでいるティグリは、脚がスラっと長くて格好いい猫です。だから岩合さんはわざわざ横から撮るんですよ。しかも遺跡をバックに歩いているところを。これが神の化身みたいでめちゃくちゃ格好いい。どう撮ればそれぞれのネコが輝くか、ほとんど反射神経でわかっちゃうんでしょうね。
ネコが平和に暮らせるのって大事だよね
ボスニア・ヘルツェゴヴィナのモスタルで出会ったツブルレ(撮影・岩合光昭)
あとは1992年から3年半にわたり続いたボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争の激戦地であり、その後多民族・多文化の共生と和解の象徴として世界遺産となった街のモスタルで暮らすネコたちも選びました。 お日様を浴びてのんきな姿を見せるツブルレは1歳半のオスで、画廊の看板ネコなんですよ。
ちょうどロシアがウクライナに侵攻した頃に岩合さんと打合せをしたんですが、「難しいことはさておきネコが平和に暮らせるのって大事だよね」という、とても素朴な話になりました。それで改めてモスタルの写真を見直したんですが、30年前に破壊された街で人びととネコが平和に暮らしてる光景がとても尊く見えました。
他にもたくさんのネコが登場しています。世界中から選びましたので、どちらかといえば海外のネコが多めになっています。岩合さんや『世界ネコ歩き』のファンの方なら、「見たことある!」と思っていただけるようなネコばかりではないでしょうか。日本からは、南紀・熊野古道のみゃあ、京都・美山の義経、柴又のミーヤとノコの母娘など、皆さんがもう一度会いたい、と思っていたネコが登場していると思いますよ。
NFT特典を付けたら…実は動物写真集初だった
――今回、時代の先端を行く「NFTデジタル特典」付きの特装版(部数限定)も同時に発売したんですよね。
そうなんです。岩合さんは、1週間の撮影期間なら撮影枚数が1万枚以上にもなるのですが、皆さんにお見せしたいような良い写真が沢山撮れているんです。しかし、写真集や雑誌に掲載されるのは極わずかですから、いつも勿体ないなあ、惜しいなあと思っていました。
そこで、今回はNFTでそういう写真を蔵出ししようということになり、私自身すごく嬉しかったです。どんな写真を見てもらおうかと、岩合さんと色々相談しました。
検討を重ねた結果、写真集に登場するネコ達の中でファンの人気が高いのがベーコンとタマトモなので、彼らの写真をNFT特典に使用することになりました。
ベーコンがいい顔をしているのに後ろからヤギがぬっと顔を出しているのとか、歌舞伎の見栄のようなポーズを決めているのに舌がチョロっと出ちゃったとか、かわいいのに雑誌や写真集で使いにくい写真も選んでいます。
タマトモは、とにかく可愛い写真を選びました。これは岩合さんからの要望でもありまして、一人の飼い主として2匹を溺愛しているのが伝わってきてほほえましかったです。
また、これが動物の写真集では本邦初のNFTデジタル特典なんです。10ページのミニ写真集『蔵出しベーコン元気いっぱい』と『玉三郎&智太郎の休日』の2種類のどちらかがランダムで取得できます。