『アマゾンに鉄道を作る』
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<書評>『アマゾンに鉄道を作る 大成建設秘録 電気がないから幸せだった。』風樹茂 著
[レビュアー] 伊藤千尋(ジャーナリスト)
◆世界の片隅から日本憂う
とかく批判されがちな日本の政府開発援助(ODA)だが、実態はどうだろう。地球の反対側、アマゾンの奥地で一九八〇年代、「地獄の鉄道」と呼ばれた線路の復旧事業が行われた。現地側とやり合う通訳は、企業文化を嫌う型破りな派遣社員だ。生々しい援助の現場を忖度(そんたく)抜きで痛快に綴(つづ)る。
南米ボリビアの辺境にある小さな村を拠点に、六十九キロ区間で線路や橋を建設した。日本式に仕事をする建設会社と現地の労働者はしばしば衝突する。「日本人は出て行け」と石も投げられた。度重なる脱線、汚職や犯罪、猛烈インフレ、援助金の踏み倒し。さんざんだが「予定調和はつまらない」と考える著者はむしろ楽しむように受け入れる。
なにせ現地の民は「悲しい歌を明るいメロディで歌う」人々だ。悪党も受け入れ「こんな自分でも生きていいと思わせてくれる」寛容な社会は、「世界の片隅にあるがゆえの強さ」を持っている。人は肌を寄せ合って生きている。
翻って日本はどうか。生産性の追求やコンビニなどの利便性は「生きる実感を乏しくさせる罠(わな)」ではないか。開発本位で自給自足をあざ笑うが、「自給自足ができるのは素晴らしいことではないか」。
おせっかいな援助で被害を受けるのは現地だ。先住民は「私たちは電気などいらない。開発などまったく興味がない。ただ私たちは生き残りたい」と叫ぶ。鉄道は完成し援助の目的は達成した。でも、村人は損害を被ったと恨む。
日本の行動様式は往々にして「負の効果」をもたらす。住民に配慮する視点を欠いてはならない。青年海外協力隊を国内協力隊にして定住外国人を支援し移民局を創設するよう、著者は提言する。
戦後の日本は「破壊ではなく建設を、争いではなく友和を」国是とした。「破壊が得意な」米国とは違う。ところが、欲望に忠実な米国の自由主義市場経済を採用したため、今や途上国型の格差社会となり、活力を失ったと見る。
本書の隠れたテーマは「世界の片隅から日本を憂える」である。著者は副題の方を強調したかったのではないか。
(五月書房新社・2200円)
1956年生まれ。作家、開発コンサルタント。著書『ホームレス入門』など。
◆もう1冊
杉山大二朗著『仁義ある戦い アフガン用水路建設 まかないボランティア日記』(忘羊社)