最後の桶屋に弟子入りし大桶作りを習う、波乱万丈の奮闘記

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巨大おけを絶やすな! 日本の食文化を未来へつなぐ

『巨大おけを絶やすな! 日本の食文化を未来へつなぐ』

著者
竹内 早希子 [著]
出版社
岩波書店
ジャンル
産業/農林業
ISBN
9784005009626
発売日
2023/01/24
価格
946円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

最後の桶屋に弟子入りし大桶作りを習う、波乱万丈の奮闘記

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

 日本酒、味噌、醤油。木の大桶で仕込む日本古来の伝統食材だ。

 ここ数年、こだわりの食品を好む消費者が増え、ステンレスやホーローなど近代設備で作られた量産品ではなく、“本物”の味が求められているという。

 それなのにその大もとになる木桶を作る職人や工場がなくなっている。著者は食品管理の仕事をしていた二十年前にその声を聞いていた。

 高さ約二メートル、直径約二メートルという巨大な木桶は一度作ると百年から百五十年持つ。精巧に作られる大桶は高額だ。だから新しい桶は稼ぎの良い酒蔵が注文した。

 二十年から三十年経って酒がしみだすようになると、一度解体して組み直し、次は醤油屋が引き取る。塩分が隙間を埋め漏れなくなると、そこから百年は使えるという。

 いよいよ最後のときに引き取るのは味噌屋だ。壊れるまで使われる。

 酒蔵が木桶を使わなくなったのは戦後のこと。飢餓状態の国民を救うには、酒を作る余裕はない。じっくり時間をかけて作る醸造発酵製法は材料のロスも多い。さらに木桶は不潔だと嫌われた。当然木桶の発注はなくなり、木桶業者は廃れた。

 酒や醤油はその蔵の微生物が木桶に棲み着き、独自の味を醸し出す。二〇〇五年、小豆島で醤油蔵を営むヤマロク醤油の大桶が百五十年の寿命を迎え底板が抜けた。そして気づく。直してくれる人がいない。

 最後の桶屋、大阪の藤井製桶所に発注を出したのが二〇〇九年。だがこの工場も二〇二〇年で廃業するという。ならば、自分たちで桶を作ろう。幼なじみの大工とともに藤井製桶所に弟子入りし、伝統的な製法で大桶作りを習うのだが、波乱万丈、艱難辛苦。ハラハラしっぱなしである。

 現在、日本全国で志を同じくする後継者が増えている。読み終わってすぐに木桶の醤油を買ってきた。この味は永遠に残してほしいと思う。

新潮社 週刊新潮
2023年3月2日梅見月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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