現場指揮官だから知る真相 ドタバタもあった「歴史的大事件」

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連合赤軍「あさま山荘」事件

『連合赤軍「あさま山荘」事件』

著者
佐々 淳行 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784167560058
発売日
1999/06/10
価格
660円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

現場指揮官だから知る真相 ドタバタもあった「歴史的大事件」

[レビュアー] 吉川美代子(アナウンサー・京都産業大学客員教授)

 51年前の’72年2月28日、朝から夜まで日本中がテレビに釘付けになった。10時間20分に及ぶ生中継。NHK民放合わせての瞬間最高視聴率は驚異の89・7%。それが連合赤軍あさま山荘事件だ。

 当時の日本では極左テロ組織による事件が相次いでいた。そんな中、連合赤軍のメンバー5人が捜査網を逃れ、大量の武器弾薬とともに軽井沢の山中に建つ「あさま山荘」に管理人の妻を人質にして籠城。札幌五輪直後の2月19日だった。これに対応すべく、後藤田警察庁長官の命令で警察庁・警視庁の歴戦の仕事人たちのチームが現場へ派遣されることに。指揮官となった佐々淳行氏は、この任務が命がけになることを覚悟し、職場の机の引出しに遺書を入れて酷寒の軽井沢へ赴く。当時の詳細なメモや関係者の証言をもとに、事件解決までの10日間の一部始終を描いたのが本書である。

 現場での敵は犯人たちだけではなかった。まずは日没後には零下15度以下にもなる寒さ。当時は衣服に貼る使い捨てカイロもなければ、軽くて暖かい防寒着や靴もなかった。弁当はカチカチに凍ってしまう。そこで、警視庁のキッチンカーを手配し、お湯と発売になったばかりのカップヌードルを用意した。第二の敵はセクショナリズム。作戦会議での長野県警のあからさまな敵愾心と稚拙な対応に振り回される様子は三谷幸喜作品のよう。さらに1200名を超える報道陣への対応にも一苦労。新聞に現場指揮官として佐々氏の名前が載り、東京の家族がテロの標的になる危険もあった。

 2月28日午前10時、ついに人質救出作戦が始まる。だが、寒さで無線の乾電池が機能停止し指揮系統が麻痺。犯人側の銃撃で警察官が次々と重傷を負い、2人が殉職。ここに至って警察庁から拳銃使用許可が下りる。午後6時7分、警視庁第9機動隊が決死の覚悟で山荘に突入、ついに犯人逮捕と人質救出に成功。

 事件を覚えている人も知らない人も、原作を忠実に映画化した『突入せよ!あさま山荘事件』を観て欲しい(長野県警関係者と人質の名前は変えてある)。テレビには映らなかった現場の混乱ぶりがリアルです。

新潮社 週刊新潮
2023年3月2日梅見月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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