『ヒエログリフを解け ロゼッタストーンに挑んだ英仏ふたりの天才と究極の解読レース (原題)The Writing of the Gods』エドワード・ドルニック著(東京創元社)
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- 著者
- エドワード・ドルニック [著]/杉田 七重 [訳]
- 出版社
- 東京創元社
- ジャンル
- 歴史・地理/外国歴史
- ISBN
- 9784488003975
- 発売日
- 2023/01/30
- 価格
- 2,970円(税込)
書籍情報:openBD
『ヒエログリフを解け ロゼッタストーンに挑んだ英仏ふたりの天才と究極の解読レース (原題)The Writing of the Gods』エドワード・ドルニック著(東京創元社)
[レビュアー] 森本あんり(神学者・東京女子大学長)
古代文字 解読者の奮闘
冒険推理小説のように読める歴史ドキュメンタリー。太古の文字が千数百年を経てよみがえるという雄大なロマンチシズムも味わえる。
「ロゼッタストーン」といえば、ナポレオンのエジプト遠征で発見され、シャンポリオンが解読した、あの三言語の石板のことである。わたしも昨年上野の展覧会で黒光りするそのレプリカを見たが、強烈な存在感があった。
ヒエログリフ(古代エジプトの神聖文字)は古く、紀元前五世紀のヘロドトスも読めなかったほどだ。とはいえ、同じ内容が古代ギリシア語でも書かれているのだから、解読は難しくないはずだ。一九世紀の学者たちはそう考えた。だがそれは大きな誤解だった。三つの言語といっても、レストランのメニューではない。これは、千数百年前に死に絶えたとされる言語で作られたクロスワードパズルである。そもそも、アルファベットですらない。切れ目もない。音か、単語か、概念か。右から読むのか左から読むのか。古代言語に比べたら、戦争中の暗号解読などはいともたやすい芸当に見えてしまう。
発音がわからないことも大きな障害だった。アヒルとハゲタカは何を意味するのか。シャンポリオンはコプト語を手がかりに、それらが「息子」と「母」の同音異義語であることに気づく。ついに解読できた時には「わかったぞ」と叫んで失神し、五日間寝込んだという。他に、史上初の「女王」ハトシェプストの存在や、なぜその名が抹消されてしまったのかなど、ミステリー的な要素も多々織り込まれている。
解読者たちが正しかったことが証明されたのは、彼らの没後三〇年が過ぎ、ロゼッタストーンと同時期に書かれた別の石が見つかった時である。解読の文法書を手にして読んだ人の「まるで古代エジプト人がわれわれに話しかけてくるようだ」という感慨は、ラピュタの心臓部に分け入ったムスカが「読める、読めるぞ」と言った時のような感じだろうか。杉田七重訳。